りっく

親密さのりっくのレビュー・感想・評価

親密さ(2012年製作の映画)
4.6
対話から人間関係を引き出す濱口監督らしく、自分と他人は違う人間であるという前提から、他者と対話することで相手を知り、関係性を構築していくという過程をワークショップで見せる場面が上手い。

そこで人間など分かり合えなくていいと思っていた脚本家の男が、同棲している演出家の女と深夜の電車を降り、端を歩きながら夜明けを迎え、彼らの関係性も修復される長回し場面の美しさ。

その他にも、「親密さ」という演劇のキャスティングが発表される際、あるいは本番まであまり時間がない中で、本読みや稽古をせずにワークショップばかり実施する演出家に対しての、冷ややかな視線や表情を素早い切り返しで映し出すスリリングなテンポ感。

演出家として脚本家として役者をまとめ、自分の意思を伝え、一つの作品を完成させるまでの困難さと、そこに信頼や人間関係を獲得するまでの言葉の積み重ねが本当に巧い前半部。

そして「親密さ」という演劇が上演される第2部では、からだという入れ物に閉じ込められた魂が相手に触れようとする「恋愛」について「話し言葉」ではなく「書き言葉」でストレートに演者の口から語られる。魂というやわらかいものが、言葉という固いものに傷つけられながらも、それでも人は自分と違う他者から愛され認められつながることを渇望する。人を丸ごと「肯定」すること。それがどんなに素晴らしいものかを実感させる。また「PASSION」の女教師を連想させる「暴力とは何も選べないことである」という自論を展開する男の迫真の台詞回しに固唾をのんだ。

ラストも素晴らしい。演劇から2年後、演劇関係の出版社の編集として働き、まだ演劇も行っている女と、途中で演劇を抜け出して韓国の軍隊に入隊した男が偶然鉢合わせする。そんな二人を乗せた2代の列車が並走し、二人は無邪気に列車内を走り窓の外の互いの顔を見て笑いあう。そんな列車が分岐点をむかえ徐々に離れていくカットの美しさよ。それは人の出会いと別れであり、英俊時代に出会った仲間とのそれぞれの人生の岐路であり、モノづくりをするために奮闘した仲間たちが散り散りになるという宿命にも見え、心に深い余韻を残す。
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