Azuという名のブシェミ夫人

黒いスーツを着た男のAzuという名のブシェミ夫人のレビュー・感想・評価

黒いスーツを着た男(2012年製作の映画)
3.0
自動車ディーラーで働くアランは、社長の娘と結婚を控え、順風満帆な人生を送っていた。
ある夜、友人達を車に乗せ騒いでいた彼は通りすがりの男を轢いてしまう。
一度は外に出て男の様子を見に行ったアランだったが、友人らに焚きつけられ、その場から逃げてしまう。
その一部始終をアパートの窓から目撃していた女性ジュリエット。
そして、轢かれた男の妻ヴェラ。
ジュリエットを介して3人の運命が交差する・・・。

原題は『Trois mondes』=3つの世界。
こっちのタイトルの方がしっくりくる。
交わる事の無かったはずの3つの世界が、事故によってお互いに影響しあう。
でも“交わる”だけで、“混じらない”。
哀しみ、怒り、悔い、同情、償いなどを互いに慮ることは出来ても、完全に理解したり、体感することは不可能なんだというのをまざまざと見せつけられるというか。
作中で哲学者ハイデッガーの『死というものは各自のものである。誰にも代わる事は出来ない』という死に関する考察が述べられるシーンが出てくるけど、まさにこれなんだろうな。
慰めは助けになる。
だけど、最終的に個々の痛みと苦しみはそれぞれで消化するしかないんだろう。
淡々とシンプルに、でも軽々しくは無く描いてる。
この三人の誰にも感情移入出来ないのは、わざとそうしているのかもしれない。
観客も一部始終の目撃者の一人となるために。
でもラスト近くでは、3つの世界のそれぞれの扉がちょっとだけ開いたようにも思えるけれど。

主人公を演じるラファエル・ペルソナ、『アラン・ドロンの再来』と言われているとか。
うーん、分からないでもないけど・・・彼の方が柔らかい感じの雰囲気かな。
個人的にはジェームズ・マカヴォイと同じ系統の顔立ちだなと。
とにかく素敵なイケメンさんです。
彼の最後の眼はなかなか良かった。

飲んだら乗るな。これ鉄則。