emily

黒いスーツを着た男のemilyのレビュー・感想・評価

黒いスーツを着た男(2012年製作の映画)
3.4
苦労して出世し、社長令嬢との結婚を10日後に控えた自動車ディーラーのアルは、仲間たちとのパーティで羽目を外してしまい、夜中のパリの町中で車で男をはねてしまう。動揺したアルはその場を後にし、何もなかったように日々を過ごそうとしたが、その一連をバルコニーからみていたジュリエットと出会い・・・

 必死で築き上げた物を守る事をとっさに選択しまったアルだが、罪悪感を払拭することが出来ない。ジュリエットは事故現場を目撃し、医師を目指していることもあり、被害者家族と交流を築き上げていく。アルとジュリエットの日常と心情の移り変わりを交差させて見せていく。片一方は善意で行ってる事であり、もう片一方は間違った行動の罪悪感からどんどん壊れていく。突然の選択に迫られた時、無意識に自分を守る法を選んでしまうことが多いだろう。そんな悪気のない選択と良心の狭間を上手く操り、そこに善意を振りかざすジュリエットの一歩間違ったらおせっかいになる行動が、仲介的な立場で両者を追い込み、境界線を自然と超えて行ってしまう描写が、唐突ながらも上手く作用し、「こんなはずではなかった」人生を見事に描き切っている。

 苦労したものは一つの選択により簡単に壊れてしまう。そうして壊れた物はもとに戻らない。しかりなくす事により気が付くこともあるのだ。それは必死で手に入れることで忘れてしまった、人ととして大事なことである。そうしてそれは成功すればするほど見失いがちになるのだ。黒いスーツはいつだって着られる。しかしどんなに着飾っても身なりを良くしても、結局大事なのは人間としての本質なのだ。失うことでそれに気が付けたなら、また新たな人生を始めれば良いだけだ。今度は安い黒いスーツであったとしても、きっと輝いて見えるだろう。
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