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ばしゃ馬さんとビッグマウスのkouのレビュー・感想・評価

3.5
《夢を見ている間は綺麗》
「さんかく」「ヒメアノ~ル」の吉田恵輔監督作品。麻生久美子、安田章大出演。吉田恵輔作品らしい作風で、コメディなんだけれども、観ている側の心を切迫する、棘がある作品だった。こういう事ってあるなとか、こういう人っているよなという生々しい描写についてとてもリアルに描いていた。

今作では特に「夢」を持った人について描いている。夢があるからこそ何かに必死になって、馬車馬のように夢に向かっていくが、それがいつしか感覚をマヒさせてしまう。迷いながら、苦悩しながらも夢を追い続けるのだ。「いつか何かになる」という意志は周りを見えなくさせてしまうこともある。

そんな馬淵みち代(麻生久美子)に対して天童義美(安田章大)は自分で脚本を書こうとしない。それなのに脚本を書かせたらすごいと自信だけはあるビックマウスだ。彼がは馬淵に惹かれ、彼女の姿勢を見ることで、脚本を書くという事に対して真剣に向き合っていく。しかし、夢は見ている間だけ綺麗だ。身を削って自分を削って、それでやっと一歩だが、そこから夢へ向かう苦しみは続く。実際に踏み込んでしまうと、その夢は恐ろしく縛り付けもする。

きっとビックマウスの彼はこれから馬車馬さんのようになるのではないかと思う。初めは自分が必ず人と違って、特別な何かを持っていると信じている。それがだんだんと現実を見はじめ、努力に努力を重ねていくのだ。そしていつしか夢の持つ引力に逆らえなくなってしまう。そんな痛々しさ、夢を持つ人にとってみれば辛い作品でもあるのではないか。

しかし、吉田監督はそれをあくまでも重くさせすぎずに、キャラクターをデフォルメすることによって笑える作品に仕上げた。キャラクター達への愛情も感じられる作品だと思う。馬淵というヒロインが一生懸命でかわいらしいのだ。そしてラスト、何かに打ち込み、その先にある二人の結末にぐっと心を掴まれる。そのラストは不思議な爽快感すらあった。
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