えびちゃん

女っ気なしのえびちゃんのレビュー・感想・評価

女っ気なし(2011年製作の映画)
5.0
この感情、なんていうんだろう。身に余る自己犠牲的な優しさは居心地の悪ささえ感じ、見返りを求めないあたたかさに涙が誘われる。行き過ぎたおせっかいにドギマギしつつ、もの悲しさと愛おしさがじんわりと沁みこむ不思議な気持ち。とっておきの宝ものを見せてもらったよう。犬が大事に隠しているおもちゃをちらっと見せてくれるような感じ。
前日譚の『遭難者』と合わせても90分足らず、しかもどこへも行かない。とてもミニマルなつくりの中で、言葉を持たなくとも、まなざしは雄弁に語る。バカンスに訪れた母と娘、迎えた孤独な男3人のそれぞれの葛藤や思いが棘のように突き刺さってひりひりじんじん痛む。
他者に依存しないと生きられない母、そんな母に嫌悪感を持ちながらも切り捨てられない娘、困ったような笑顔でふたりをじっと見つめ寄り添うコンドミニアム管理人でスーパーお人好しシルヴァン…活気があるのはバカンス期だけの寂しい町から出られない、狭い世界で生きてきたシルヴァン。『遭難者』では2年前に別れた彼女の写真を見せていたが、彼は過去に生きる人なのかもしれない。たった数日の出来事が孤独な心を慰めて潤す。きっとこれからも寂しい閉じられた町でひとりで暮らしていくんだと思う。枕に残した彼女の香りを幸せのお守りのように心にしまって。まんまるの背中で寝ているふりをするやさしさが切なくて愛おしかった。
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