静かな鳥

女っ気なしの静かな鳥のレビュー・感想・評価

女っ気なし(2011年製作の映画)
4.5
"女っ気なし"の前に"毛なし"であるシルヴァン(ヴァンサン・マケーニュ)が、ひたすらに尊い。さえない男のルックスのはずなのに、観終える頃には彼のことをとびきり愛おしく思っている。彼は本当にやさしい人だ。いつまでも観ていたかった。1時間にも満たない映画だが、ずっと心に留まって離れない余韻。

『7月の物語』のギヨーム・ブラック劇場デビュー作。本作もヴァカンス映画である。海辺の町でアパートの管理をするシルヴァン。ヴァカンスしにその町を訪れた母娘。3人のささやかな交流のひとときを心地よい空気感で描く。シルヴァンにとってはまるで妄想のような、つかの間の夢のようなハーレム。夜、彼が母娘のアパートを後にする際、ベランダから2人が手を振ってくれるのとかほんとズルい。ジェスチャーゲームのくだりも、うまく言葉にはできないが堪らないものがある。最高。

されど物事には必ず終わりがある。『7月〜』と同様ヴァカンスの終わりの予感は常にそこかしこを漂っており、だからこそ一つ一つの瞬間が儚く美しく映るのだ。言いようのない切なさを内包したとびきりの楽しさ。心の機敏を繊細に掬い取り、そこに素朴な情景が重なる。淡い色をした海、曇りがちな空。浜辺で戯れるシークエンスにて、うつ伏せのまま海に突っ込むシルヴァンに笑う。草分け用の棒を持ちながら古い建造物を案内する彼の後ろ姿が、このシーン単体だけだと「背後から殴りかかろうとしている人」っぽく見えちゃうのも狙ってやってるのかは不明だがじわじわ面白い。

そして、非日常は日常へと帰っていく。部屋でひとりWiiテニスをするシルヴァン…。ヴァカンスの時期が来る度に彼はこの出来事を、あの朝の残り香を、思い出すのだろう。自分にとっても、心に大切にしまっておきたいようなそういう「思い出」の映画になった。大好き。
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