コーカサス

ゼロ・グラビティのコーカサスのレビュー・感想・評価

ゼロ・グラビティ(2013年製作の映画)
3.9
なんて神秘的な映像の連続だろう。

背中を丸めた姿勢で無重力を彷徨うライアン(ブロック) の姿は、“宇宙” という母体におさまる胎児のようだ。
さらに船内を張り巡らす何本ものコードやチューブを臍帯 (さいたい。へその緒)と考えれば、それは生きとし生けるものの最も神秘的で尊い“生命誕生”を連想させる。
もっと深読みすれば、母ライアンが見付けた亡き娘の赤い靴は、ドロシー (『オズの魔法使』)の“赤い靴”だ。
すると、この時点で「やっぱりお家が一番である」という“生還”を示唆していると予感したのは私だけだろうか。

そして、全てはラストシーンへ。
無数の破片と共にライアンを乗せた宇宙船がまっしぐらに地球を目指して突き進む様子は、さながら精子のようであり、地球のとある湖、これすなわち羊水を思わせるカエルの住む湖に着水するや否や、溺れそうになりながらも懸命に宇宙船という子宮から産まれると、たどたどしく四足歩行で地上へと辿り着き、ついには2本の足で大地をしっかり踏みしめて、自らの力で歩き出す。

その美しい映像の連続は、まさに生命誕生の瞬間を捉えており、僅か数分ではあるものの、全ては “このためだけに” 物語があったと云っても過言ではない。

そして、何より音楽が素晴らしい。

キュアロン監督が描いた《2013年宇宙の旅》は、“生還と生誕” を同時に詰め込んだ、まさに命の物語だった。

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