MasaichiYaguchi

ゼロ・グラビティのMasaichiYaguchiのレビュー・感想・評価

ゼロ・グラビティ(2013年製作の映画)
3.7
本作の予告編を観た人の大半は「あの後一体どうなるんだろう?」と思ったに違いない。
あの状況を考えれば、アンパンチを食らったばいきんまんよろしく「バイバイキ~ン」と遥か彼方に飛ばされて星になるか、運良く何処かに辿り着いた環境で生き延び、「ウルトラマン」に登場する「ジャミラ」みたいになって怪獣として地球に帰還するしかないような気がする。
アルフォンソ・キュアロン監督は、地獄のような状況下、天から降りて来た「蜘蛛の糸」のようなか細い望みで主人公に「死中に活」を求めさせようとする。
だから主人公に都合の良いような展開はしないし、却ってこれでもかというぐらい主人公の頭上に絶望的な状況を雨霰のように降り注いでいく。
実質本作はサンドラ・ブロックとジョージ・クルーニーによる二人芝居と言って良い。
舞台も状況も違うが、この作品を観てジェームズ・フランコのほぼ一人芝居で展開する「127時間」を思い出した。
片やシャトルを破壊された上で宇宙空間に放り出されてしまうというピンチ、そして此方はユタ州のブルー・ジョン・キャニオンでキャニオニング中に岩と共に滑落し、右手が岩と壁の間に挟まれ身動き出来ないというピンチ、この二つの作品で夫々絶体絶命状況の主人公は「生還」しようと闘い続ける点において共通だと思う。
「127時間」は、それこそ「力技」でピンチを脱したが、本作の場合は多くの人々が考える「手段」しか地球に帰還する道は無い。
凡庸な監督ならば、この「大風呂敷」の話をご都合主義の展開とてんこ盛りのアクションで描いてしまうと思うが、アルフォンソ・キュアロン監督は違う。
歳月をかけて開発した新しい撮影技術で見事に宇宙空間を再現し、そこに演技派ベテラン俳優二人を配することによって、心震わせる人間ドラマを展開させてみせた。
これ程見事な「大風呂敷」の畳み方はないと思う。