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パトリオット・デイのeiksaaenkのレビュー・感想・評価

パトリオット・デイ(2016年製作の映画)
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死傷者の数が発表されると数字の大小ばかりが目に行くが、「何人死んだ」とかなんて実はどうでもいい。それぞれ1人1人の人生の転換点がそこにあったのだ。
たとえば警官が行きつけのドーナツ店に入る前に咥えてたタバコの火をつけたまま店先に置いてレジに向かい店員と会話して、店を出てまた吸い出す。「地元を愛する老刑事」というのは設定でしかない。映画でキャラクターが立ち上がる瞬間というのはこういう描写だと思う。
端的で丁寧な点描を積み重ねることで、2013年にボストンにいた人間が〇〇人いた、という数字に回収されず、1人×〇〇の物語がそこにあったという群像劇としての強度を獲得することにこの映画は成功した。2回の爆発で、死んだ人と怪我をした人がその数だけいたということをキッチリ伝える事故現場での細部の描写は圧巻。
パッと写っただけで前後の物語を想像させるようないい顔の役者ばっかりだったけど、犯人の妻の取り調べでの眼差しの強さが殊更に印象的だった。犯人たちやその家族にもそれぞれの人生がある。
マーク・ウォールバーグを中心としながら、主人公を設けずそこにいた一人一人が描かれる。その象徴となるのが「BOSTON STRONG」という言葉であり、適宜挟まれるボストンの空撮カットには接続詞以上の意味がある。この物語の主人公はおそらくボストンなのだろう。

それからトレント・レズナーの音楽もめちゃくちゃよかった。これが聴きたかったんだよトレント!
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