Inagaquilala

パトリオット・デイのInagaquilalaのレビュー・感想・評価

パトリオット・デイ(2016年製作の映画)
3.6
作品のタイトルともなっている「パトリオット・デイ(Patriots Day)」とは、日本語で言えば「愛国者の日」。アメリカのマサチューセッツ州、メイン州、ウィスコンシン州の3州で、4月第3月曜日に制定されている祝日だ。アメリカ独立戦争の緒戦となる1775年4月19日のレキシントン・コンコードの戦いにちなんだもので、毎年、この日にボストンマラソンは開催される。2013年のパトリオット・デイ (4月15日)に実際に起きた、まだ記憶にも新しいボストンマラソン爆弾テロ事件を描いたのが、この作品だ。

作品に登場するのは、ほとんどが実在の人物をモデルとしているが、主人公だけは新たに設定されたもので、ボストン警察の刑事であるこのトミーを物語の「水先案内人」として、事件前から以後の犯人逮捕までを描いていく。この架空の主人公を設定したことで、観る側はより事件のストーリーに入りやすくなっており、たぶん脚本的にもかなり事実に縛られないエンターテインメントな表現も盛り込めるようにもなっていると思う。

とはいえ、作品は全編がトミーの視点から描かれるのではなく、事件の当日の模様を、トミーはもちろん、逮捕に従事する警察官たち、マランソンに参加するランナー、そして犯人たちのも含めて、時間を刻々と明示しながら、マルチな多視点で描いていく。前半の焦点はもちろん、事件の瞬間、爆発物が炸裂する場面だ。その時に向かって事件に遭遇するさまざまな人々の行動や生活が語られていく。事件の全貌を丸ごと理解するうえでは、なかなか巧みな演出だ。

事件そのものの描写は、作品半ばのクライマックスシーンで、ニュースフィルムで見た以上に、全体を把握できるかなり広角なアングルで描かれる。事件そのものを最前列で見守るような心憎い演出だ。後半はは警察とFBIによる犯人追跡劇がメインとなるが、例によって地元警察とFBIとの主導権争いも絡み、なかなか興味深い展開ともなっている。

ラスト近くの犯人と交わされる銃撃戦だが、かなり派手な演出になっており、実際こんなことがあったのかと疑問符もつくが、そこはやはり映像的スペクタクルを追求したのだと思う。ただ、同じく主演マーク・ウォールバーグ、監督ピーター・バーグでタッグを組んだ直近作「バーニング・オーシャン」よりは、スケール面では迫力は落ちる。

新たに設定された主人公についてだが、架空であるがゆえになかなか活躍どころが見つからず、事件においては最後やや中途半端な立場にならざるを得なかったところが、痛いところかもしれない。マーク・ウォールバーグ主演ということで、彼に見合う実在の人物が、事件で活躍した人間の中に見当たらなかったためかもしれないが、この設定が、最後は逆につくる側の首を絞めていたようにも思える。実録ものの難しいところではあろう。
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