タケオ

彼女はパートタイムトラベラーのタケオのレビュー・感想・評価

4.0
 1997年にアメリカの雑誌『バックウッズホームマガジン』で、「私と一緒にタイムトラベルしてくれる方を急募します」という広告がジョークとして掲載された。その広告からインスパイアを受けて制作されたのが、本作『彼女はパートタイムトラベラー』(12年)である。本作は公開されるや否や各方面から絶賛を受け、「サンダンス映画祭」をはじめとした多くの映画祭で様々な賞を受賞。スティーブン・スピルバーグが本作の完成度に感銘を受け、まだ本作でデビューしたばかりの監督コリン・トレボロウと脚本のデレク・コノリーの2人を『ジュラシック・ワールド』(15年)の監督.脚本に大抜擢したのは有名な話である。
 『彼女はパートタイムトラベラー』はタイムトラベルを描いたSF作品ではなく、「何故人間はタイムトラベルをしたがるのか?」という疑問に対する鋭い考察から組み立てられた、極めて優れたヒューマン・ドラマである。「何故人間はタイムトラベルをしたがるのか?」それは「過去に囚われたままの自分を変えたいからだ」というのが『彼女はパートタイムトラベラー』の答えだ。本作の登場人物たちは誰もが皆、過去に囚われてしまっている。家族との死別、恋人との別れ。ある瞬間で自分の時間が止まってしまい、そこから抜け出すことができていない。過去に囚われた臆病者たちが今を生きる自分を肯定することができずに右往左往する姿は側から見ると滑稽だが、本人たちは至って真剣だ。本作に登場するキャラクターたちが抱えているトラウマやコンプレックスは普遍的なものばかりで、心の底から共感できるような実存感がある。低予算ながらも、鋭い洞察と豊富なアイデアに満ちた巧みな脚本には舌を巻く。個性的なキャラクターたちに説得力を持たせたキャストの演技にも、手放しで拍手を送りたい。
 過去に囚われた人間たちが、「タイムトラベル計画」を通じて止まってしまっていた自分の時間を少しずつ動かしていく様は感動的だ。過去ではなく、未来のために今を生きる。遂に一歩を踏み出した主人公たちが優しく寄り添い合った時、『彼女はパートタイムトラベラー』は出色の「人生讃歌」として燦然たる輝きを放つ。臆病な負け犬たちだからこそ紡ぐことのできた'小さな奇跡'を描いた傑作である。
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