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タイニー・ファニチャーのsatoshiのレビュー・感想・評価

タイニー・ファニチャー(2010年製作の映画)
4.7
 アトロクにて存在を知り、自分の経験的に観ておかなければならない作品な気がした作品。中々上映されなかったのですけど、先日、遂に渋谷で上映されたので、鑑賞しました。突き刺さりました。

 本作は海外TVドラマシリーズ『Girls/ガールズ』の制作者の1人、レナ・ダナムさんの自伝的作品。大学を卒業するも、リーマン・ショックのあおりで就職できずに実家に帰ってきたオーラの日常を描きます。

 本作は、とにかくオーラのダメダメぶりが素晴らしかったです。家では終始下着でいるし、友だちとの約束も雑に破るし、就職先も気まぐれで辞めます。見た目は完全にダメ人間。母親が芸術家として成功し、妹も将来有望であるため、無職で自堕落な彼女のダメさ加減が際立ちます。また、これは寝転がっているオーラと、ランニングマシンで走っている妹、といった映像によって、視覚的にも際立たせています。

 これだけ観れば、「何てダメな奴なんだ。ちゃんと働けよ。しっかりしろよ。将来どうすんだよ」と思う方もいるでしょう。でもね・・・

ンなこたぁ分かってんだよ、バカヤロー!!

って感じですよ。百も承知だよ。だからオーラはあんなにイライラしてるんじゃないですか。彼女は上記の指摘なんて分かっている。そのためには何か行動し、人生を自分で切り開かなければならないと思っている。でも、そのための努力ができない。そうした自分にイライラしている。それを邪魔しているものの1つは、おそらく大卒というキャリア。この自意識が彼女の行動を狭めているのです。そしてもう1つは、「何をすればいいのか分からない」というモラトリアム全開な気持ち。そう、彼女は、実はモラトリアムを求めているのです。これは多分、ハムスターの死を先延ばしにしたい、というあの行動にも表れていると思う。だから行動しても、意味を見出せない。

 これらは、社会に出て荒波に揉まれている人からすれば、「何言ってんの、コイツ・・・」な意見です。「甘えてんじゃないよ」とも言われそうです。そしてそれは事実です。だからオーラは余計にイライラしているのです。そして、こう言い出すのです。「お前に私の苦しみが分かるのか?」と。「普通に」就職できた人間に、大学を出て、無職になった人間の苦しみが分かるのか、と。その苦労が分かるのかと。「間違ってる」存在が、それを公に言えない気持ちが分かるのかと。まぁ完全に被害妄想ですが。

 こんなにも面倒くさく、でも何か愛おしくなる映画は中々ないです。人によっては、オーラをただのダメな人間としか思えないでしょう。ですが、私は感情移入しまくりで、何だか、私自身を肯定してくれたような気分になりました。だから、ラストで「モラトリアムの終わり」を予感させられたときは、ホッとするとともに、少し寂しい気持ちになりました。
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