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ハンナ・アーレントのいとJのレビュー・感想・評価

ハンナ・アーレント(2012年製作の映画)
5.0
たった一人でも反対できる人間を育てる教育。ナチス時代の反省から、現在のドイツではそのような教育方針が掲げられている。

SSでユダヤ人虐殺の命を下していたアドルフ・アイヒマンは、イスラエルでの裁判で「自分は直接手を下していない。命令に従っただけだ」と主張した。裁判を傍聴することになったユダヤ系ドイツ人哲学者のハンナ・アーレントは、アイヒマンの役人のようなそぶりから、”悪の凡庸さ”に思い当たる。ニューヨーカー誌に載せられたハンナの記事は、シオニストたちの反感を招いた。

「思考停止に陥った凡人」のアイヒマンと生涯にわたって戦い続けたハンナは対照的だ。自身も国を追われた身でありながら、彼女は同胞の大量虐殺の責任の所在がどこにあるのかを冷静に分析した。そして一方で、虐殺の事実だけを見て憤りを覚え、感情論でハンナを責め立てるシオニストたちは、思考停止という点ではナチの党員と同様である。

同胞愛よりも大きな人類愛。ハンナはそのために闘ったのだ。思考の巨人ハイデガーの愛弟子として、思考が人を強くすると言った彼女は、まさしく現在のドイツの教育方針が目指す理想の人物だろう。

日本人はエスニックジョークで「みんながやるなら私もやる」とネタにされてしまうが、彼女の思想、生き方から学ぶべきところは多くあるはずである。
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