あんじょーら

新しき世界のあんじょーらのレビュー・感想・評価

新しき世界(2013年製作の映画)
3.6
少し前に観た「アシュラ」がとても良かったので、同じように評判の良かったし、映画好きの方もオススメしていたので見ました。しかもtbsラジオで宇多丸さんも絶賛していた、と記憶していたので、見終わった後に動画で当時の宇多丸さんの批評も聞いてみましたが、当たり前ですけれど、結構感想って違うモノですね。私はゴッド・ファーザー感はあまり感じられなかったです、私にとってのゴッド・ファーザーって、家族の中での跡目争いなんかじゃなく、あくまでヴィトー・コルレオーネから紆余曲折あってマイケル・コルレオーネに権力が移る話じゃなく、マイケルの秘めたる内なる能力の発現の物語だと思うので。人によって同じ映画を観ても全然違った見方になるんだなぁ、とつくづく思います。そして、人それぞれでイイと思ってます。

薄暗い港近くの倉庫で、ある人物が拷問を受けています。拷問されている人物からは、拷問を指示している人物の顔は見えません、強い逆光を浴びているので。とてもとても不穏な空気が流れ、拷問されている人物は、その顔の見えない相手に向かって懇願しています。しかし・・・と言うのが冒頭です。

韓国のコングリマット企業ゴールドムーンの会長の突然死から始まる組織内の権力闘争という軸と、その中に巻き込まれている潜入警察官の内なる葛藤を描いた作品です。そして、すっごく、勢力分布図が、この前に観た映画「アシュラ」に似ています。敵対する2つの組織、どちらにも弱みを握られている状態の主人公、という構図です。しかし、本作「新しき世界」の方がやや単純化されていて筋を追いやすいですし、凄惨さも抑えられていますし、万人に受ける作品なのではないでしょうか。しかも、みんな大好きチョン・チョン兄貴、という非常につかみが良くて、まるで松田優作のようなキャラクターで、誰しもが好きにならずにいられない存在が居るのが大きい。このキャラクターの造形、演じる俳優ファン・ジョンミンさんの魅力がすさまじいです。多分ココがテコになって好きな人にはタマラナイ唯一無二の作品になる事もあるでしょうし、何処かで見たキャラクターに感じる人は、もう少し冷静に観れるようになる気がします。誰にとっても初めての『兄貴』的なキャラクターが居ると思うのです。それが松田優作さんだったり、高倉健さんだったり、ビトー・コルレオーネだったりするだけで初回性というものは誰にも存在します、きっと。

そういうわけで、今回の主人公は、結構影が薄いです。何しろ、巻き込まれ役ですから。そして映画は非常にはっきりとした1点を主軸に置いていて、それが恐らく友情とか兄弟杯、とかその手の奴です。

なので、映画の結末は非常にすっきりすると思います、唯一1点私には分からなかったのが、初代会長を誰が陥れたのか?です。

それともう1点ラスト近くのとある対象を陥れるためのシーンを拷問にして、最初のシーンにしていたら、もっと円環構造も使えてあれはそういう事だったのか!という驚きが出て良かったと思います。

もちろん、刑事役のチェ・オールドボーイ・ミンシクさんの演技も渋かったので良かったですけれど、とは言えタバコを止めるシーンは、もう少し同期させておかないと、おバカさんに見えますし、基本的にこの映画の女性役2名は、本当に女性でなければならなかったのか?という疑問は残りますね。「アシュラ」の場合の女性は本当に紅一点で、しかも、最後に結局、○○されるという見せ場、女性でさえも、という意味を感じましたけれど、こちらの映画では、あまり感じなかったです。特に奥さんを出す理由、何かあったのでしょうか?そりゃ、刑事が引き合わせた実は家庭まで潜入されてる捜査官が潜入捜査官って面白味はありますけれど、刑事が奥さんまで使っていた、という驚きで終わっていて、すごく投げやりな感じがしました。もったいないと思います。

それと、また、またまた非常に下層な何でも仕事にするキャラクター集団が出てきて、これは韓国ではお決まりの組織なんでしょうか?謎は深まるばかりです・・・

1点指摘しておきたいのは、やはりハードボイルド作品には友情はつきものですし、実は中心人物ほど、何もしなくても巻き込まれる感じって、凄く村上春樹の小説みたいです。これは揶揄しているのではなく、そういう上手さ、テクニックが初期から村上春樹さんの小説にはある、という事です。だからこそ、多くの読者に読まれ、しかもそれぞれが、この僕(村上春樹小説の主人公はほぼ1人称で、僕 表記です)は私(読者)が1番理解している、と思わせる事が出来るのです。ま、何度も何作も読まなくてもイイとは思いますけれど、通過儀礼としては通っておいた方がイイと思うので。

それにしても韓国映画の水準の高さ、新たな表現は本当に凄いですね。今作で感じた新しい野蛮表現、これをしている人は流石に普通じゃない、と見ている観客に分からせる表現として、建設途中のゴルフシーンを指摘しておきたいです。これは初めて観る、そりゃ悪い人で、しかも文句を言われないくらいの権力の持ち主、という表現だと思いました。絶対死人が出てもオカシクナイし、凄く、人の死をどうでもよい人にはゴルフコースでゴルフをするよりも爽快感がありそうに、見えました。

それと、ファン・ジョンミンさんは、あの映画「コクソン」の祈祷師役!と知った時の衝撃!同じ人に見えなかったです。俳優さんとして、凄い。

韓国映画が好きな方に、オススメ致します。