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アカシアの通る道のslowのレビュー・感想・評価

アカシアの通る道(2011年製作の映画)
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世界にはまだまだ未知の映画があり、そうでなくても、ここまで届かなかったものや、観る機会を逃してしまったものが、無数に存在しているのだろう。地味な作品はとくに埋もれてしまいがちだけれど、人知れず根を張り芽を出し、しっかりと花を咲かせている作品は多い(映画祭で注目を集めたものであったり)。本作から感じられたのも、そういう生命力だったろうか。何も聞いていなければ半世紀、それ以上前の映画を観ていると錯覚してしまいそうになるほど現代的な要素は見当たらない。しかしながら描かれているものはとても普遍的で、わたしたちと同じ味がする。赤ん坊を抱いたシングルマザーと、彼女らを隣国まで送り届けるトラックドライバーとの間に流れる時間を、たまたま同乗したカメラがただひたすら撮っただけのようなこのロードムービーは、少量の言葉と無垢なまなざし、進む距離だけが空気を変えられ、変えてしまえる以外は、目に見えるドラマはおろか、胸の内すらおおっぴらにせず、どこまでも淡々としている極質素なもの。これほど余計な味付けをしない素材勝負の作品も珍しい。娯楽性を求める方には退屈極まりないだろうし、間違いなく好き嫌いはわかれると思うけれど、わたしはこの花から目が離せなかった。
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