アレハンドロ・ホドロフスキーの奇妙な冒険
第一部 その青春
いやぁ、最高でした!
特に終盤からスタッフクレジットまでの場面。
背後で流れる物悲しい旋律も含めて完璧の一言。というか、この文章を書きながら何回も再生していますよ。うひひ。もうね。この“哀愁漂う”愛すべき作品は…何度再生しても飽きません。一生ものですな。
ただ、残念なことに。
本作の魅力を万全に伝えようとしても…文章で表現するのが難しいんです。そもそも演出が“ぶっ飛び”過ぎていますからね。それを真正面から書いても「え。どこが“哀愁漂う”の?」なんて疑問符が飛び交うことになると思うのです。
それでも、あえて例を挙げますと…。
放尿してラジオを壊す場面があります。
手足を失った身体障碍者を足蹴にします。
魚の死骸が一面にばら撒かれる場面があります。
…ね。そのどこが“哀愁”に繋がるのか…解らないですよね。
でも、それらは表面上のことなのです。
観ている側の価値観を揺さぶり、心に隙間を作ろうとしているだけなのです(たぶん…あるいは…おそらく…)。そして、揺れた価値観の向こう側に見えるのは“少年時代の蹉跌”。それはある意味“亡者の国に繋がる扉”なのです。
だから、根底に流れているのは物悲しい旋律。
その優しくて残酷なセレナーデが奏でるのは、自分(現在)ではない自分(過去)の物語。それを受け止めることが出来た時点で、人生を全面的に肯定することに繋がるわけなのですな。うは。もう最高。
まあ、そんなわけで。
ホドロフスキー監督の少年時代をシュールな筆致で描いた作品…ですが、それは生と死、夢と現実、良識と悪識、笑いと涙。色々なものが上から下から右から左から流れてきて、自分の中の“常識”を壊しに来る物語に仕上がっていました。
確実に人を選ぶ作品だと思いますけどね。
波長が合えば珠玉の一品になるのは間違いなし。試してみる価値はあると思いますよ(…責任は取れませんが)。
それにしても。
本作をホドロフスキー監督が83歳で作られた…ということに驚きですな。御本人も出演されていましたが…まだまだご健在の様子。生涯現役で貫かれるのでしょうか。最高ですな。