鬼才アレハンドロ・ホドロフスキーが描く、自身のアイデンティティの物語。
続編である『エンドレス・ポエトリー』が地元の映画館で上映されることになったので、その前に観ておこうとVODで鑑賞。
あー映画館で観たかった…。
軍事政権下のチリ。スターリンを崇拝する無神論者の父と、常に歌っているスピリチュアルな母の元で育つアレハンドロ少年。
父の信念。母の期待。時代の変化。幼い少年はあらゆる波の中で、それでも必死に生きる。
そしてそんな彼を見守る85歳のアレハンドロおじいちゃん。
記憶と空想を織り交ぜながら、監督は自分の生きてきた道を辿る。
すべてが絵本のように美しくも残酷で、しかしその底辺にはひとりの人間が生きた世界が根を張っている。
実体験を元にした作品というのは、映画だけでなく多くの分野に見られるが、芸術として昇華させているものは少ないように感じる。
もちろん人生は長さではないが、ホドロフスキーは己の生きた85年すべてを芸術としてぶちまけた。
こんなことされたら誰だって手も足も出ないだろう。
そして本作は監督自身の物語であり、彼の父親の物語でもある。
おそらく彼はこの作品を通して初めて父親と向き合い、握手を交わしたのではないだろうか。
それは彼自身が父親になり、ひとりの息子を亡くし、85歳になった今だから出来たことなのだと思う。
圧倒的なパワーと、あらゆる感情の嵐のような130分間。
泣いたし笑ったけど、一番心を支配していたのはこの圧倒的な芸術作品に触れた喜びだった。
『エンドレス・ポエトリー』、そしてその先の物語が今から楽しみ。