フラハティ

リアリティのダンスのフラハティのレビュー・感想・評価

リアリティのダンス(2013年製作の映画)
3.8
生きろ。
苦しみは未来の自分を生む。


ホドロフスキーの幼少期と家族の記憶。
"家族の再構成"と語った自伝的な本作は、観客を自身の過去へ向けた幻想的な世界へ導いていく。


この世で最大の謎は自分の存在。
外界の世界により形作られる自分という存在。
一生つきまとう、過去という断片。
悪夢のような出来事も、理不尽というべき環境も、どうしたって変わることはない。
苦しみ抜いてやっとの思いで抜け出したとしても、ふと頭をよぎる。
自分のせいでこうなったわけではないのに、苦しみがいつまでも追いかけてくる。
暗闇が包み込む。

苦しみを受け止めることは容易いことではない。
過去を変えることはできないが、自らを守るために婉曲しながら見方を変えることはできる。
過去を救おう。
魂を救済しよう。


映画として自身の苦しみを芸術へと昇華させながら、"家族の再構成"を果たした本作。
ホドロフスキーってほんと優しい人だよね。
自分がこんな幼少期だったなら、一生親を許せない気がするから。

今まではカルト映画監督としての印象が強かったホドロフスキー。
本作においてはカルトさがポップさへと変貌を遂げ、力強い映像はマジックであり、芸術として受け入れやすい作品だと感じる。
『エル・トポ』、『ホーリー・マウンテン』はぶっ飛んだカルト要素が前面に出ているため、芸術として素直に受け止めていいかわからなかった。
でも本作は、ホドロフスキーの作風を知ったというのもあるんだけど、素直に映画を芸術として昇華できていると思う。
特に後半の展開とか『エル・トポ』とか『ホーリー・マウンテン』やん!ってちょっと感動。笑


本作は自伝的な作品なんだろうけど、過去や現在に辛い思いをしながら生きている全ての人へ向けたホドロフスキーのメッセージが込められている。
過去は今の自分を作る。
過去には辛くて、苦しいことばかりだったかもしれない。
現在でも苦しんでいるかもしれない。

でもこう考えればいい。
『あの辛い過去があるから今の自分がある』
『この苦しみがあるから、未来の自分に繋がる』
楽しさ、嬉しさ、喜びももちろん人生には必要だけど、そこから学ぶことって意外と少ない。
100%楽しいことばかりの人生なんて存在しないし、苦しみから学ぶことは余りにも多い。
今の境遇を呪うことだってあるだろう。
でも大丈夫。死ぬことはないから。
時間がかかってもいいから、理不尽を噛み砕いて自分を成長させる糧にすればいい。


過去は過去。
現在は現在。
生きていればきっと、奇跡は起こる。
ほんの一瞬でも、人生には輝く瞬間が訪れるから。
フラハティ

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