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リアリティのダンスのnetfilmsのレビュー・感想・評価

リアリティのダンス(2013年製作の映画)
3.7
 ホドロフスキー自身の自伝的な物語を元に作られた『サンタ・アングレ』から24年振りの監督作。彼の70年代の初期作からは既に40年以上の月日が流れているが、未だにまったく古びていない。それどころか彼のルーツとなったイメージが幼少期から既に形作られていたことに驚く。1920年代、まだ幼かったアレハンドロ・ホドロフスキー少年は、父母とともにウクライナから軍事政権下のチリ、トコピージャに移住し暮らしていた。権威的で暴力的な共産主義者の父親と、アレハンドロを自身の父の生まれ変わりと信じる元オペラ歌手の母に愛されたいと願いつつも、その父親と母親の狭間でもがき苦しむ。『サンタ・アングレ』でも見られた厳格な父親と物言わぬ母親の対比がここではより一層強調されている。一番印象的な場面はお爺さんの金髪のカツラを付けたホドロフスキー少年を理髪店に行って父親が強引に地毛に戻す場面だろう。決して台詞を話すことなく、オペラ調の歌でしか表現出来ない母親との対比がくっきりと映し出された象徴的な場面であり、少年の苦労を浮き彫りにする。

 荒涼とした山々、見世物小屋の球体のサーカス場、奇形の人々、大量の動物の死骸、それらのイメージは全て幼少時代のホドロフスキーが思い描いていたイメージの集合体に他ならない。今作は色を巡る物語でもある。ホドロフスキー少年の着ている青い服にくっきりとした赤い靴の対比。疫病患者たちの黒い服と黒い傘、大統領が寵愛する真っ白な馬。それらのはっきりとした原色が主張する明確なイメージが、後のホドロフスキーの映像美を育むことになる。母親との観念的なやりとりもこの色を巡る物語を象徴するエピソードである。いじめられて泣きつく息子に母親は「透明になればいい」と語りかける。夜の闇の怖さに泣きついた時には、全身黒塗りでスキンシップを図ろうとする。記憶喪失となり、指が真っ直ぐ開かずに街の中を彷徨う奇怪な父親の姿は、『エル・トポ』や『ホーリー・マウンテン』の主人公たちの鬼気迫る彷徨にそっくりである。既存のイメージの他に、今作には新たに海という新しいイメージが付け加えられる。当然のように海は全ての始まりであり、終わりをも意味する。家族を見送る色を失った人々の等身大パネルが過去と現在、未来を象徴するかのようである。
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