ブタブタ

ミシマ:ア・ライフ・イン・フォー・チャプターズのブタブタのレビュー・感想・評価

4.0
日本未公開・未DVD化作品。
初めて見たのは高円寺にかつてあった「オービス」と言うマニアックな品揃えのレンタルビデオ屋に置いてありそれを借りて見ました。

「第一章・美(beauty)」
「第二章・芸術(art)」
「第三章・行動(action)」
「第四章・文武両道(harmony of pen and sword)」
の四部構成で三島由紀夫の幼年期から作家として大成する迄の半生をモノクロのドラマで。
市ヶ谷駐屯地で決起、割腹する三島由紀夫の最後の1日をドキュメンタリータッチで。
章毎に三島の著作『金閣寺』『鏡子の家』『奔馬』が劇中劇で挿入され、非現実的な舞台セットでそれぞれが同時進行で時系列もバラバラに描かれる。
第二章の劇中劇『鏡子の家』は初め『禁色』の予定だったのが三島の遺族の反対により『鏡子の家』に変更され、しかし結局遺族からの横槍で日本での公開は未だ果たされていません。
作中で美輪明宏(と思われる)らしき美青年との同性愛的な描写に三島未亡人が難色を示したせいだと言われていますが。

ターセム・シン監督の作品を多く手掛けた石岡瑛子による美術デザイン。
『金閣寺』の真っ二つに割れるオブジェの金閣寺や『鏡子の家』の真っ暗な舞台上に作られた箱庭の様なセットや『奔馬』の主人公らグループが政府要人の暗殺計画を密談する部屋は周りをフスマで囲んだだけで何も無い場所だったり、特高警察に捕らえられた主人公が尋問を受ける警察署は鉄格子の柵だけが並んでいる非常に抽象的なセットで再現されていたりと、三島の実人生パートのリアルさシリアスさとは対称的に思い切り振り切れていて、特に『鏡子の家』のピンク色の蕎麦屋の屋台の周りを人々がゾンビの様にグルグル回り主人公(沢田研二)とボディビルダー(倉田保昭)が蕎麦を啜っていると画家(横尾忠則!)がやって来て芸術論を戦わせたり、映画と言うよりキッチュなセットと相まって小劇場のアングラ演劇を見てる様です。

国立劇場での「楯の会」のお披露目。
行進する隊員の中に佐野史郎の顔も見えます。

三島由紀夫と言えば真っ先に思い浮かぶのは市ヶ谷駐屯地バルコニーでの演説する姿と「楯の会」の派手な制服。
全身はライトカーキでオリーブグリーンの襟と袖に金ボタン。
ナチス親衛隊とホテルのボーイを混ぜたみたいなカッコイイですけどこの格好で日本刀を構える三島由紀夫の姿は今で言う厨二病にしか見えなくて(失礼)でもそんな所も三島由紀夫を単に作家ではなく特異な人物、奇人足らしめ謎多きミステリアスな人物として現在でもファンを増やし続ける要因だと思います。(?)

個人的な意見ですが三島由紀夫と対極的な人物として坂本龍馬が思い浮かぶのですが、ダビデの星(コンパスに直角定規を合わせたフリーメーソンの紋章と同じ?)を付けた着物を着て当時の最新兵器であるピストルを構えた坂本龍馬とシャルル・ドゴールの軍服を参考にした(デザイナーは同じ人だそうです)派手な軍服を纏って時代遅れも甚だしい日本刀を構える三島由紀夫。
大政奉還でサムライの時代を終わらせた坂本龍馬と自衛隊員に「諸君等は武士だろう!」と叫んだ三島由紀夫。
ビジネスライクで何処までもドライで政治的な思想がなくそれゆえ薩長同盟の様なあっと驚く事を成し遂げた坂本龍馬と、物質優先主義から天皇を中心とする文化と美意識を説いた精神主義・理想主義者の三島由紀夫は何から何まで真逆の存在だと思います(話がそれました)

この制服に身を包んだ三島の私兵集団(ファンクラブ?)「楯の会」ですが三島の最後に立ち合った学生リーダー森田必勝と三人(三上博史、徳井優、後1人はわからず)計5人による市ヶ谷駐屯地総監室での篭城とバルコニーでの演説がクライマックスで、日本刀・関孫六を携えた三島由紀夫が堂々と総監室まで通され「事件」を起こす。

そしてあの有名なシーンへ。
バルコニーでの演説。
拡声器等を自分の肉声で。
いくら声を張り上げてもヘリコプターの飛行音に自衛隊員のヤジによって三島の声はかき消されてしまう。
三島由紀夫程の人がまさか本当に自衛隊員らが決起し自分の後に付いて革命を起こす等本気で思っていたとは思えないし、ならアレは何が目的だったのか。
情死説・小説のスランプ説・只切腹をする為だけにあの状況を作ったとか、はたまた常人には思いもつかぬ理由があったのか。

因みに三島が登場する『帝都物語』では自衛隊体験入隊のさいに情報将校として自衛隊に入り込んでいた魔人・加藤保憲と出逢い(中略)加藤保憲を倒す為に決起、総監室にて加藤の首を跳ね更に冥府の加藤の本体を倒すべく割腹、介錯により跳ねられた三島の首が現世と冥府の通信機になると言う荒俣宏先生のイマジネーションは素晴らしいですが(笑)その位の理由が三島先生の最後には相応しいです(よく分からない感想でした(~_~))
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