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私の、息子の一人旅のレビュー・感想・評価

私の、息子(2013年製作の映画)
3.0
第63回ベルリン国際映画祭金熊賞。
カリン・ペーター・ネッツァー監督作。

交通事故を引き起こした息子とその母親の関係性を描いたドラマ。

ベルリン映画祭で最高賞に輝いたルーマニア映画で、交通事故で見知らぬ少年を死なせてしまった息子と、彼の罪を軽減させるべく各所を奔走する母親の姿を、手持ちカメラによる撮影+淡々としたリズムの中に静謐に映し出しています。

ルーマニアの母親の特異性ではなく、日本のみならず世界中に当てはまる普遍的な親子関係を描いた作品。事故を引き起こし窮地に立たされた息子を救うために母親は証人・警察・遺族など各所に連絡を取り、息子の罪が軽くなるよう奔走します。そんな母親の必死な行動とは裏腹に、事故の当事者である息子は母親を疎ましく思うばかりで母親に対し心無い発言を容赦なく浴びせてしまうのです。しかし、どんなに息子から毛嫌いされようと、母親は最愛の息子に対する根源的な愛情には逆らえない。母親を疎ましく思う息子と、息子が心配で過度な干渉に及んでしまう母親という親子の光景は、ルーマニアのみならず世界中の家庭で目にするものなのです。ちなみに日本では「母親が過干渉で父親が無関心」が家族環境のダメパターンとしてしばしば取り上げられますが、本作に登場する家族もまさしくそれに近い状態です。

そして同時に本作は、息子に対する愛情を優先し過ぎる余りに“一般的なモラル”が無意識の内にないがしろにされてしまう怖さを浮き彫りにしています。事故で死んだ少年のことなど最初から眼中になく、あくまで息子を救うために母親は奔走します。不利な証言をする証人には金を握らせ、経済的に貧しい遺族にも金で解決しようとする。我が子に対する母親の愛情の切なさ、そして客観的視点の欠如に伴う痛々しさが真に迫ります。
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