支配的で強圧的で独善的で子離れできない社会的実力者の母親。そんな母親を激しく拒否するが、30にもなって自立できず現実と向き合おうとしない異常なまでに潔癖性の息子。主人公2人のキャラクター設定だけで、これはもう全く他人事では無い。
そんな息子が誤って子どもを殺してしまう。母親は、コネを使い証人を買収し明らかにやり過ぎなあの手この手を繰り出す。息子は、事態を収拾できないどころか被害者への謝罪すら出来ないくせに、介入する母親を罵倒する。そんな親子関係を見せつけられると、もはや心中は全く穏やかでは無い。
ここには、判で押したようなステロタイプのご都合主義的なムスコンもマザコンも登場しない。出てくるのは、こちらが理解したつもりになることを拒否するような複雑で流動的なリアルな人間たちばかり。故に、見ていて不快だしとことん苛つく。よくもまあ、これほど人間を掘り下げて描けるものだと感心させられる。傑作心理劇である。
ベルリン国際映画祭・金熊賞。ルーマニア映画。