映画漬廃人伊波興一

天使のはらわた 赤い教室の映画漬廃人伊波興一のレビュー・感想・評価

天使のはらわた 赤い教室(1979年製作の映画)
4.3
戒めを破ったような孤独な男と非運を背負うために生まれてきたような黒髪の女との間に次々と花咲く妖しい蓮の如し

曽根中生「天使のはらわた 赤い教室」

その男・村木哲郎が固唾をのんで見守ろうと、ボンと音を立てて花開くような派手さはない。にも拘らずその女・土屋名美は自分に向ける視線の期待に沿うような何かを控えめに放つ。

ブルーフィルムの上や温泉宿の見世物にはそぐわない彼女の真の姿を初めて知った村木はそれまで出会った女の前とは明らかに異質な幸福を噛みしめる。演じる蟹江敬三のその時の表情がまた素晴らしいです。
妖しい蓮の花に準(なぞら)えるように褒めたたえ乍ら、健全な男性機能を発動させる。

世間を前で常に蹲踞(そんきょ)するような村木と名美が(不運であっても不幸ではない)という言葉を現すような邂逅が、映画が進むにつれ、あれほど不釣り合いであったのに、あれほど相容れない環境であったのに、いつの間にか出逢ったことを悔いる必要のない5分と5分の関係に変わっていくさまはこの世に存する全ての生き物の番(つがい)を代表する様な輝きを放ちます。

やはり男と女はこうでありたい。

今や女性ファンの方が上回っているかのような石井隆原案「天使のはらわた」シリーズですが相米慎二「ラブホテル」と双璧をなす傑作がこの「赤い教室」ですね