「掟によって」
冒頭、カナダとアラスカを流れるユーコン川の岸辺で黄金採掘をしている男4人と女1人。
移動計画、鉱脈、不満、食事時、射殺、夫婦、手足の拘束、氾濫、小屋、外界からの孤立、殺人犯、裁判、肖像画。今、怒りで2人を殺した殺人鬼の裁判が始まる…
本作はレフ・クレショフ自身が最高傑作と認めている本作をこの度初見したが映画理論を進化させた重厚で緊迫感のあるサスペンスに仕上がっていて驚いた。
冒頭の川のシーンから引き込まれる。
1匹の犬と男が踊り始める。犬のショット、不意に髭剃りする男の顔、聖書を手に持つ女性のブーツと腕のショット、髪をとかし、笑顔になる。
楽器を弾くちょび髭の男と芸をする犬、パイプを蒸す男、徐々に登場人物がスクリーンに現れ紹介されて行く…
あの大雨の中、遺体を外に運び出す深夜雨に打たれながら強烈な怒りに顔の表情を強張らせるヒトラーの様なちょび髭の男の描写が何とも言えない恐怖と共に音楽が素晴らしく合致していて良い。
この映画サイレント映画にもかかわらず、普通に巧妙なサスペンス映画で非常に楽しめる。
この様な古典映画が苦手な人も正直言ってスクリーンに夢中になって見れると思う。
とりわけ豪雨の演出に力が入っていて迫力満点だし、光(ライトアップ)風、水の運動が凄い。
氷が溶けて水に囲まれている小屋が水面に反射するワンショットは最高で蠱惑的だ。
さて、物語はカナダとアラスカを流れる川の岸辺で黄金採掘をしている男女のグループの中で殺人が起こる。被害者2人、容疑者(殺人者)1人、傍観者2人である。この事件が起こったきっかけは仲間たちに馬鹿にされた男が怒りを制御できずに、2人を射殺してしまう。
残された3人は小屋に取り残され、殺人犯と共にするが彼らは裁判をこの小さな空間で行いはじめる。
時が過ぎて川が氾濫して身動きが取れなくなる。
果たして彼らの運命は…と単純に話すとこうで、商業映画としてもアートフィルムとしても優れた1本だと思う。
前衛的な世代が撮った作品の中でも芸術的なアイデアを表現する事に関してはかなり優れていて、短いシーケンスをリズミカルに変貌させる才能を持った監督だと感じた。
あの美しいロングショットは忘れられない…
風になびく髪の描写や光る河、野外ショットの数々、その中に生活の孤独を浮き彫りにした象徴的な風景が不安感と空気感で観客に伝達するこの取り組みに拍手喝采したい。
ただ前作とは違って詳細が少ない状態ではあるが、細かくつなぎ合わせたカットがある分、古典的絵画風な大自然のショットは文句のつけどころがないほど素晴らしく、ドラマも心理を強調した脚本で面白い。
まだ本作を見たことがない方はぜひ見てほしい。
この逃げ場のない限定された空間でのドラマを体験すると非常に現実状況の複雑さの不一致がわかる。
最後に黒い松の木のローアングルショットは本当に印象に残る画である。
今考えるとこんな少人数の登場人物で、しかもミクロコスモスで、ここまでの傑作をこの1920年代で創り上げた監督は凄い人物である。
ここ最近見た旧作では最高の1本。