ゆん

ハードスプラッシャーのゆんのレビュー・感想・評価

ハードスプラッシャー(2008年製作の映画)
5.0
どんな大作が一流のスタッフと俳優を揃えても敵わない、インディーズだからこその優れた点をかき集めて出来たような作品だった。
ストーリーは、監督演じる主人公の妻が出産中に亡くなってしまうところから始まる。
このシーンは白飛びした画面がスロー再生になるなど、救命作業が行われている事が典型的なフォーマットに則って表現されている。この作品で唯一常識的な演出がされている貴重なシーンだ。
主人公は妻の生前の思い出に浸り鬱々とした日々を送るなかで、妻が医療関係者に扮した悪魔にとり殺される映像を見る。それは夢だったのかもしれないし、妄想か、あるいは現実だったのかもしれない。
ここから物語は混沌を極める。主人公は黒魔術を使って復讐をしていくのだが、起こっている現象が魔術的な悪夢なのか?現実に存在しているのか区別がつかなくなってくる上に、主人公自身にも呪い(?)が降りかかりぺニスから虫が這い出してきたり赤子を受胎したりとストーリーも絵面もグチャグチャドロドロに荒れ果てていく。しかも、それらの一切に説明が無いのだ。

このような作品に度々起こる現象としてはっきり写しているのに何を描いているのかわからないというものがあり、原因は稚拙なメイク技術や説明不足によって産まれるものだが、何故そこから内臓が出るのかとか、何その血の吹き出し方とか。私は人体がそんな不合理な壊れかたをしていくのが心底恐ろしい。しかもそれは狙ったものではなく、全力で表現されればされるほど狂気を増す。
その不可解さがどこか深遠で秘められた恐怖心を駆り立てる。行き過ぎたゴアが笑い事でなくなる瞬間だ。
登場人物、我々含め誰一人物語を理解できず、管理できないまま物語が進み、映画は無法地帯と化していく。その様子を面白がれるか否かで、作品の評価は真っ二つにわれるだろう。こちらの度量を試されているような、いとおしい自由さがそこには広がっている。どんなに低評価でも、観る者の心に必ず何かを植え付けたに違いない。
ゆん

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