シエル

ブリュッセル1080、コメルス河畔通り23番地、ジャンヌ・ディエルマン/ブリュッセル1080、コルメス3番街のジャンヌ・ディエルマンのシエルのネタバレレビュー・内容・結末

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このレビューはネタバレを含みます

シャンタル・アケルマン監督特集三作目の観賞。

退屈なルーティンの上にかろうじて成り立っていた心理的バランスが、ルーティンの小さな綻びによって崩れ、破綻する。

『私、君、彼、彼女』では剥き出しだった虚無感が、ここでは日常を支えているが、ジャンヌはそれに蓋をして生きている。その象徴が、リビング(夜はダイニングにもなる)のテーブルの真ん中にどかんと鎮座する蓋付きの大きなスープの器だ。あんな器がずっとそこに置いてあること自体がおかしいし、あの金は寝室の引き出しにしまったっていいはずなのに。息子と夕食を食べる時、ジャンヌはそれを“傍に追いやる”。そして食事が終われば中央に戻す。毎日。

昼間でも電気を消せば暗い部屋部屋の暗さが、そのまま作品世界の不穏さを演出している。電気を、都度都度部屋に入る時に点け出る時に消すジャンヌに“消し忘れさせ”、スープの器の蓋を“閉め忘れさせた”のは見事だった。わかりやすい演出と言ってしまえばそれまでだけど。

基本的に一人で過ごすジャンヌの生活には、生活音が異常なほど大きく響き渡る。
コツコツと刻まれる靴音は次第に癇に障り始めるし、赤ちゃんのあれほど酷い泣き声を初めて聞いた気がした。

(2022年映画館31本目)
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