ROY

ブリュッセル1080、コメルス河畔通り23番地、ジャンヌ・ディエルマン/ブリュッセル1080、コルメス3番街のジャンヌ・ディエルマンのROYのレビュー・感想・評価

4.8
家庭劇場を静かな緊張に包み込むミステリアスな作品

これを25歳の時に撮っちゃうっていう

■ABOUT
中年の未亡人ジャンヌが住むアパートの一室。この部屋で家事をこなし、料理を作り、隣人の赤ん坊の子守りをして、同居する思春期の息子が学校へ通う午後には体を売る。退屈ではあるが規則正しかった彼女の生活は、少しずつ秩序を失い始める。アパートの一室での出来事を、淡々とカメラが追い続ける3日間のドラマ。(Stereo Sound Online)

■NOTES
昨年、BBCが「女性映画監督による優れた映画100」を選出した際、本作は、ジェーン・カンピオンの『ピアノ・レッスン』とアニエス・ヴァルダの『5時から7時までのクレオ』に次ぎ、3位にランクインしていた。

↑「The 100 greatest films directed by women」『BBC』

主演は『去年マリエンバートで』や『ブルジョワジーの秘かな愉しみ』のデルフィーヌ・セイリグ。撮影は女性撮影監督バベット・マンゴルト。フィックスや長回しのカメラが切り取る厳正なる撮影構図と配置演出は必見だ。

シャンタル・アケルマンは、いわゆる近代映画と呼ばれた世代のリーダー格の一人で、侯孝賢やガス・ヴァン・サントをはじめとする当代一流の多くの映画監督に影響を与えた。

ミートローフのミンチ肉を捏ねるのに必要な4分間はそのまま映画になるのか。

アケルマンは、ポーランド移民である両親や親類の女性達に囲まれ、ユダヤの厳格な生活様式の下に育つ。その女性らの家庭での身振り素振りに着想を得たのが、1975年の本作である。遺作『No Home Movie』まで通底して描かれる問題は、アウシュビッツ虐殺から逃れながら、たった1時間の早起きによる空白が不安で倒れるような、彼女の母に起因するものが多い。娘は移動できるけれど、滅多に母に会いにいかないし、目の前にいると知らない人のようにも見える。だから、映画が作られた。距離ゆえに可視化される思慕と親密さ。

「観客は、ベッドメイキングをし、皿洗いをし、テーブルセッティングをし、浴槽を掃除し、コーヒーを淹れ、ミートローフを用意し、スープを食べるまでにどれだけの時間がかかるのかを体験しなければならない。 アケルマンは、映画と観客の関係性を変えようとしている。『ブリュッセル1080〜』のペースに合わせることは、自分のバイオリズムを再調整することのようにも思える」

↑「Then as Now, the Terrors of the Routine」『The New York Times』

なんちゅうラスト!
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