イランの名匠アスガー・ファルハディ監督のヒューマンサスペンス。
離婚手続きのため元妻の住むパリへやってきたイラン人の男が、元家族が抱える人間トラブルに巻き込まれる。
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新作『英雄の証明』の予習も兼ねて。『別離』や『セールスマン』とは異なり、舞台がフランスとなっており、イラン独特の文化は扱われていない。
「ある過去の行方」見事な邦題だ。
一組の夫婦の離婚劇に始まり、その周囲の人間関係の綻びが次々と露見してくる。淡々とした会話劇が続くがエンタメ性もしっかりあり、何層にも上塗りされた「ある過去」の真相がどんどん見えてくる。良い気分はしないが、興味深い人間ドラマだった。
自分勝手な解釈、責任転嫁、見栄、嘘。見せかけの人間関係がガラガラと崩れ落ちていく。意味深なラストカットはどう解釈すれば良いのだろう。愛を失った者たちが流した涙なのだろうか。
ベレニス・ベジョ(『アーティスト』)の存在感。一番自己中で他人を突っぱね続ける女・マリーを熱演。とてもストレスが溜まった。爆発力もあった。
冒頭の空港での再会シーンを始め、ガラスやドアが登場人物の距離感を表す重要な役割を果たしている。音響とも連動していて、お互いの姿は見えているのに声が聞こえない、すぐ側にいるのに心が通じない、などともどかしくなるシーンが多々あった。
大人たちの都合に振り回され続ける子どもたちが、可愛そうでならない。家庭環境の重要さを痛感させられる。
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