吉田コウヘイ

ある過去の行方の吉田コウヘイのレビュー・感想・評価

ある過去の行方(2013年製作の映画)
4.5
空港。迎えに来た女はガラスに隔てられた向こうに男を見つけるが、男は荷物に気を取られ気づかない。やがて男は女に気づきガラスに近づくが、女の伝えたいことは要領を得ず伝わらない。

この数十秒で主人公2人の性格…優しいが間を外しがちな男と、感情的で一方通行になりがちな女…を表象させてしまう手腕。

2013年、母国イランの中流階級の欺瞞をテーマにした『別離』と『セールスマン』の間にフランスで撮られた『ある過去の行方』は、『セールスマン』の後にスペインで撮られた『誰もがそれを知っている』に通じる、母国語ではない故に映像作家としてのファルハディの本質を堪能できる逸品だ。

子役の演出で監督の力量がわかるというけれど、今作のそれはリチャード・リンクレイターや是枝裕和と並ぶ現代最高峰のもの。特に末の男の子の「可愛い盛りが終わった」時期の自然さ、大人を苛つかせる存在感、確かに宿る暴力性のリアルには吐きたくなるほどの嫌悪感を覚えた。

一切のムダがない130分間のラスト。大いなる不在を露わにする長回しの美しさ、光に照らされてそこに立つタハール・ラヒムの確信。きっと、これが映画なんだろう。