まるで動く絵画。全編なんとも格調高い映像に最後まで魅入ってしまいました。
人物を中央に配置し、その背後に伸びるシンメトリーで、一点透視の構図が随所に見られ、夜の街のネオンの色、朝の海辺の青、深紅な血の色など「視覚的」な色彩演出が本当に素晴らしい。
特に離れ島の神殿で、不死になる瞬間に流れる「血の滝」の美しさ、おぞましさにはまさに驚愕です。
とても静かなトーンで進んでいく話ですが、前述した色彩のこだわりもさることながら、横に長い画面を有効に使った、画面の隅に置いた人物の反対に広がる柵のある浜辺や、船の配置、ホテル内の鏡を使った演出や、金色を基調とした装飾などの、巧妙な構図が独特の「不思議」ムードを生み出していて、隅々まで飽きずに見れました。
例えば序盤でクララが売春を行うゲームセンター内の青と赤のネオンは、娘を想う母性の純真さと男を喰いものにする女の残忍さが混在している様子を表していたり、中盤にレストランで演奏されるドビュッシーの「月の光」の選曲なども考えるととても意味深く、それは先にある展開を示している造りで、こういう非言語な表現で物語を語る構成は個人的に大好物です。
エレノアのさりげないナレーションや、物語の本筋の合間に挿入される過去のフラッシュバックも、決して本筋のストーリーを崩さない上に、現代に微妙に絡んでくる神父や、院長の関わりも話に深みを与えていたなという印象です。
そしてラストシーンまで芸術的な映像美で描かれていて、隙のない、妥協のない、目を離す暇の一切ない、非常に贅沢な一作でした。