このレビューはネタバレを含みます
1980年代の2年間、フランス・ミッテラン大統領官邸エリゼ宮専属として仕えた女性初の料理人ダニエル・デルプシュをモデルとした話。
大統領専属という大役にありながら女性への偏見、制限されたメニューへの不満、孤独との戦いでボロボロになっていく様子と4年後の1日を織り混ぜながら1人の料理人の再生を描く。
手の込んだ家庭料理は真新しくどれも美味しそうで優雅な音楽も気品を添えて良かった。
フランス領クローゼー諸島の基地の料理人の最後の日、新しい料理人との引き継ぎをしながらパーティーの準備を進めている。
4年前、フランスのペリゴール地方で叔父を看ながら農場を営むオルタンス・ラボリ(カトリーヌ・フロ)はジョエル・ロブションの推薦で大統領から専属料理人として指名を受け官邸へ赴く。
官邸厨房にいる24人の料理人は全員男性、そこに紅一点といえば聞こえがいいが男性上位時代の女性1人だから相当斜に構えられ奇異なものを見るような視線を集めた。
しかしオルタンスはそんな偏見にもめげず堂々とした振る舞いで男の2人や3人跳ね除けてしまう勢い。
要人向け料理に飽き飽きし素朴な家庭料理を好んだミッテラン大統領はオルタンスの料理を絶賛、夜中にこっそりトリュフをつまみに来たり、政治より料理の方に関心があるなど問題発言もあるほどグルメと分かる。
しかし、健康上の食事療法でメニューを制限されたり、仕入れにかかる費用を抑えられたり、肝心な料理の感想が聞けないなど不満が鬱積していく。
オルタンスはボロボロになった自分をリセットし次のステップへ進むためにクローゼー諸島へ行ったのだと思う。
クローゼー諸島での最後の料理“サントノレ”に込めた想い、それが完全に立ち直った証。そして、基地のメンバーによる“蛍の光”が優しさに溢れていて胸に沁みた。
大統領へ宛てた手紙はダニエル・デルプシュの本音だったのでは?
大統領への労わりと感謝の気持ちが新しい自分への惜別のように美しく響いた。
監督 クリスチャン・ヴァンサン
キャスト
カトリーヌ・フロ(オルタンス)
ジャン・ドルメッソン(ミッテラン大統領 )
アルチュール・デュポン(ニコラ)
イポリット・ジラルド(ダヴィッド・アズレ)