エミさん

不気味なものの肌に触れるのエミさんのレビュー・感想・評価

不気味なものの肌に触れる(2013年製作の映画)
3.8
濱口竜介アーリーワークスにて。2013年作品。

10代の若い頃というのは、誰にでも、何にでもなれる気がするというような自意識過剰な危うさが潜んでいたりする。思い込みでヒーローでもモンスターでも変身してしまえるのだ。未熟ゆえ、目の前のことで精一杯だったりして、ちょっとしたことで人を好きになったり嫌いになったり、小さないたずらが大惨事になったり、本人にとっては腐った毎日に写っているものが、実はキラキラ輝いている毎日であったと後で理解する。

千尋(染谷将太)と直也(石田法嗣)も、そういった危うさを持った高校生。千尋は父が亡くなって腹違いの兄(渋川清彦)と暮らすことになるが、孤独感は埋まらず毎日『何か』を探して心は彷徨っている。直也は恋人に振られたことが受け入れられず、恋人に固執しストーカー呼ばわりされている。
そんな二人が夢中になっているものはコンテンポラリーダンス。『相手に触れてはいけない』という設定で、上半身裸になってギリギリまで接近しながら踊る姿は、まるで禁忌とエロスというゲームを楽しんでいるようで、なんとも言えない緊迫感がある。

タイトルの『肌に触れる』のと、ダンスの『肌に触れてはいけない』のと相反したキーワード。パンドラの箱のような矛盾だ。目の前にあるのに触れることを禁じられるとは、自己の欲望を抑止することであり、また、関係性が壊れてもタブーを犯したい気持ちも湧いてしまう。人ゆえ、その矛盾に揺れる本能があるのだ。タブーを犯したいという欲望への葛藤に比べたら、世の中全てのことなんて、鬱陶しくてどうでもいいとすら思える千尋の気持ちがひしひしと伝わってきて、見終わったあとすご〜く苦しかったでした。本当に染谷将太の顔が可愛いのですよ!…なのに、千尋という存在を重ねた時、もう悪のアンチテーゼにしか見えなくて、若いってなんて残酷なんだろうと思わずにはいられませんでした。