2014年制作、周防正行監督によるハートフルミュージカル映画である。
「舞妓はレディ」とは勿論、オードリー・ヘップバーンの「マイ・フェア・レディ」をもじったもので、上白石萌音こと春子はイライザ役にあたり、津軽弁と鹿児島弁が出音されるバイリンガルとして登場する。
舞台は京都の架空の花街、下八軒にある茶屋「万寿楽」で田舎から出て来た娘が舞妓に成長していく物語である。
周防監督は個人的にはシリアスものよりもこういう軽いタッチのものに、えも言われぬオーラを放つように感じている。
刀が抜身でなく、鞘に収まった品のいい差料が似合うといったところか。
元々ミュージカル仕立ては「サウンド・オブ・ミュージック」、「ウェスト・サイド・ストーリー」レベルになると頷きもするが、若い頃はなかなか入り込めないジャンルであった。
ましてや邦画ともなると何をか言わんやであった。
リアリズム系で育ったところがあり、劇中突然歌い出すのっておかしいだろうってなところがあった。
ところが経年と共に何でも素直に観られるようになる。
「ジャージー・ボーイズ」なども楽しんで観ている。
この映画は深いものではないが、何かノスタルジーがあってペーソスもあり、時々観たくなるのである。
それこそ心がほっこりするのである。
京都祇園というと忘れられない思い出がある。
娘が京都の大学に入学が決り、引っ越しと観光を兼ね出かけた折、夕食をステーキでも食べようということになり、祇園の白川沿いの路地裏に白木の和風ステーキハウスがあった。
表の看板メニューにお一人様3,500円と書いてあったので祇園にしては廉価と思い家族4人で入店。
奥の個室へ通されメニューが配られる。
何とそこにはお一人様15,000円からと書いてあるではないか!
「ドッヒャー‼️」と叫ぶ訳にもいかず、マジ失神寸前となったが皆はおしぼりを使い水まで飲んでいるではないか。
泣く泣くグッと堪えて父親の威厳をかろうじて見せたが、味は覚えていない。
外のメニューはおつまみTake Outだと後でわかった。(それはねーだろ!)
ところで上白石はオーディションで周防監督が一目で惚れ込み一発合格だったらしいが、演技は勿論、歌も踊りも上手い。
何より小春としての舞妓デビューは初々しく「お見世出し」の日の振袖にダラリの帯、「おふく」の髷で画面に登場した瞬間はハッとするくらいの舞妓振りである。
また、小春の母の若かりし頃の回想場面はノスタルジーとレトロ感溢れるメルヘンチックな造形の中、まさにほっこりしてくる。
バックダンサーのスチュワーデスの格好がかつての「アテーション・プリーズ」の紀比呂子ばりの日航ミニスカ衣装で懐かしい。
ところで小春の先輩にあたる百春こと田畑智子の芸妓デビューで披露される長唄「黒髪」の舞には舌を巻いた。
生まれも育ちも生粋の京都で祇園の料亭の娘として厳格な習い事の仕込みを受けてきただけあって、その所作と流麗・妖艶な舞様は本物である。
ラストの出演者総出の「お化け」のレビューでは皆で歌い踊りながら、若旦那の岸部一徳が小春に言う、
「舞妓の魅力は若さにあるん
や。未熟であっても嘘のない
一生懸命さに客は惹かれるん
や」と。
はんなり映画としてMy collectionの一角にあり、時々鑑賞してはホッコリしている。