オトマイム

世界一美しい本を作る男 ―シュタイデルとの旅―のオトマイムのレビュー・感想・評価

4.0
一冊の本を手に取って、その美しさに見惚れたことがあるでしょうか。
私はコストや持ち運びの利便性を考えて大抵文庫本を買ってしまう。シュタイデル氏はその対極にある本作りをする。いわばオートクチュールの本作り。

ドイツのシュタイデル社。その徹底的にこだわった芸術的な出版物はコレクターもいるという。
縦横のサイズ、文字諸々の色彩、紙、インク、印刷方法(活版印刷かオフセット印刷か)、装丁には決めるべきポイントがたくさんある。シュタイデル氏によると本は視覚・触覚、聴覚(頁をめくる紙の音)、嗅覚を使って楽しむもの。嗅覚とは意外かもしれないけれど紙やインクの匂いにはそれぞれ個性がある。多くの出版社では合成ニスを使うのでそれらの匂いを殺してしまうが、ここでは天然の油性ニスを使うので匂いがちゃんと残るのだとか。
本作りのドキュメンタリーでここまで高揚感を覚えるとは思わなかった。


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先日銀座シャネルのギャラリーでサラ・ムーンの写真展をみた。たいへん素晴らしくて感銘を受けたので目録(写真集)が欲しかったのだけれど、見本が一冊あるだけで販売品はなし。今思えば、装丁にこだわった為にコストが跳ね上がり、沢山刷っても採算が取れないと踏んだのかもしれない。シャネルとしては妥協したものを出したくなかったのだろう。