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世界一美しい本を作る男 ―シュタイデルとの旅―のseriFilのレビュー・感想・評価

5.0
貴重だから5。シュタイデルだけでなく、僕の好きな写真家マーティン・パーやジョエル・スタンフェルドが出ていたから。光学的なRGBと紙に刷るインクのCMYKの間には太くて長い川が流れている。だから再現性が問われる。例えば写真家によるこだわりの印画紙プリントにどれだけ近づけるか。その意味で、スキャンや色分解などの製版のこだわりも見たかったが、主要シーンは顧客であるアーティストとのおしゃべり的な打ち合わせばかりでそこはやや不満だった。が、もしかしたらシュタイデルっていうひとは本マニアの印刷フェチで「再現性」などにそれほど興味がないのかもしれない。そもそも違うメディアなのだから、紙とインクつまり印刷と製本による全く別の新しい価値を生み出したい。そう思ったら色々腑に落ちた。実際、ジョエル・スタンフェルドとの仕事では色味の参考にしたのはスマホ画面だった。しかも調べてたら彼はヨーゼフ・ボイスのアシスタントをしていたという、ただのこだわりのがんこ職人ではなさそうだ。ところでこの映画、2010年とある。デジタル化及び高解像度のモニター鑑賞がより普及し、フェティッシュな所有欲がより希薄になっている現在、写真集というメディアの価値はどうなるだろう。あらゆるものを大衆へと開いたはずの印刷や製本技術が、一般人には手の届かないどんでもなく貴重な工芸品のような存在になってしまうのかな。
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