垂直落下式サミング

ボー・ジェストの垂直落下式サミングのレビュー・感想・評価

ボー・ジェスト(1926年製作の映画)
3.9
母の実家がタバコ屋さんだった。小学校に上がる前は、僕はよくそこに預けられていた。そこの常連客にちょび髭をはやしたおじいさんがいて、その人は、何の銘柄だったか、とにかく毎週金曜日の夕方に1カートン買いに来るのだけど、店先に出ていった僕が「ヘンなおひげ」と言うと「コールマンみたいだろ。コールマン髭」と笑って、それを合言葉にいろいろとお話しをして相手をしてくれた。そんなよぼよぼのコールマン翁の思い出がよみがえる。
まわりにキチッとした髭なんぞを生やしている大人が少なかった田舎の小僧には耳慣れなかった「コールマン髭」という言葉。これは映画スターのロナルド・コールマンのような八の字形に切り揃えられた口髭のことを指す言葉だ。
「ロイド眼鏡」「モンロー・ウォーク」「聖子ちゃんカット」なんて言葉もあるが、スターの名前が普通名詞化した言葉はあまり思い出せない。やはりそんじょそこらの俳優・女優ではなく、誰もが認めるところのスターでなければ、その容姿や仕草に名前がついて広まるなんてことはないらしい。
つまりコールマンとはそれほどの大スターだったわけだが、なにしろサイレント時代の人であるから、白黒映画をある程度嗜むようになってからも、私が彼の足跡のその一片であるこの映画にたどり着くまで、相当に時間を要した。
となると、コールマンのじじいは、あの時90才くらいだったのかな。母のはなしによると帝国大学を出た医者先生だったそうだ。なるほど、どおりで教養がおありで。
フランス領スーダンはサンデルヌフ砦。アラビア軍襲撃の報を受け救援に来た外人部隊を待っていたのは、全滅した兵士の死骸。そして次々と部隊のものが失踪していく。外人部隊のエキゾチズムと活劇をミステリ仕立てで展開させている。
モノクロの砂丘を隊列が行く。銃弾が石壁を壊し、砲弾が砂を巻き上げる。迫る敵兵。危うし外人部隊。
とにかく兄弟の愛と悲劇をテーマとしており、それを物語の核心としている。しかしながら、「男女の愛は月のように満ち欠けがある。兄弟の愛は太陽のように変わらない」という開幕の字幕は些かミソジニーというか、ほとんどホモソーシャル的な意味合いな気がする。事実、見せ場となるのは、男同士の見つめ合いとか、腕のなかに抱き寄せるとか、御姉様方が好きそうなやおいシーンだ。この台詞(字幕?)は、中近東のどこかの諺らしい。んん、あー、なるほどね…(偏見)