うめ

父の秘密のうめのレビュー・感想・評価

父の秘密(2012年製作の映画)
3.7
 第65回カンヌ国際映画祭の「ある視点」部門でグランプリを獲得した作品。ミチェル・フランコ監督にとって、長編作品二作目となる。

 交通事故で妻を亡くした夫ロベルトとその娘アレハンドラ。それぞれが喪失感を抱きながらも、新しい街で生活を始める。ロベルトは悲しみから抜け出せず、なかなか仕事が軌道に乗らなかったが、アレハンドラは新しい学校で友達を作り、父のために料理を作るなど、なんとかロベルトの支えになろうとしていた。しかし、ある出来事がきっかけとなり、アレハンドラはいじめを受けるようになる。ロベルトに心配をかけまいと、いじめに受けていることを隠して生活する日々が続き、修学旅行先でアレハンドラはある行動に出る…。

 まず特出すべきは演出だろう。音楽は一切なく、カメラは主に長回し。まるでドキュメンタリーを観ているかのよう…いや、もしかしたらドキュメンタリーよりも真に迫っている演出なのかもしれない。基本的にカメラは固定され、場所によっては俳優の顔が見られない位置に置かれている。だが、そうした位置、見えにくさによって、観客と画面の中の人物との間に歴然とした距離を生み、観客に現実味を与えてくれる。またその距離感は同時に、残酷な場面さえも包み隠さず映し出している。(そうした手法でも俳優の演技に注目できるように考えられた構図、アングルは見事だと思う。)

 距離があっても、観客の心に何かが残る作品となっているのは、今作の題材がとても身近で誰にでも起こりうる事だからだ。身内の死、いじめ、親子関係…ロベルトはどう思っただろう、アレハンドラは何を考えているのだろうと、二人の視点に立って考えることができる。

 監督が公式サイトのインタビューで述べていたように、ロベルトとアレハンドラは結局「間違った選択」をしてしまったのかもしれない。だが、「ああしておけば良かったのに」と簡単に言える結果となった訳でもない。だが、ロベルトとアレハンドラに起きた出来事と行為のその先に、一体何が待っているのだろうか。原題は"Después de Lucía"で「光の後に」という意味だが、Lucíaはロベルトの妻の名前ルシアも意味している。それを含めると、光を失ったロベルトとアレハンドラにはどんな光でもいいから見つけて欲しいと思ってしまうのである。

 地味と言えば地味な作品だが、つい見入ってしまった。未だに消化し切れていないものが胸につかえて、余韻となって響いている…。是非、ロベルトとアレハンドラの表情や会話に注目してあれこれ感じ取りながら観て頂きたい。