ベン・スティーラーが『ライフ・オブ・パイ』のスタジオと組んで珍しくコメディ映画っぽくない普通の劇映画を撮ったのが本作なのだが、蓋を開けてみると本当に普通の映画だったから拍子抜け。
主人公にあんまり切迫した葛藤はなくて、でもやっぱり人並みには悩んでいて、そのうじうじから解放される場面が素敵で、自然の映像がなかなか綺麗で、見終えるとなんとなく清々しい感じになれそうな旅行映画でした。人生に悩んでいる時にみると、「世界に飛び込め!」と背中を押してくれそうだ。
そりゃあ、わかるんですよ。現実逃避の空想好きなウォルター・ミティは、海外の名所に行っていろんな体験をしたから前向きにれましたとさとかいう安直な物語ではなくて、自然のなかでショーン・ペンと面と出会い面と向かって言葉をかわすことで、これまでの自分の仕事や人生は肯定されているのだと知ったから、あのラストの晴れやかな表情に繋がるのだと。それが、日々汗を流して働くサラリーマンにとって、どれほど得難い祝福なのかも。わかるんです。僕も現場ニンゲンなんで。そこまで、人の心がないわけじゃない。
でもベン・スティーラーって「映画なんか観たって人生変わんねえよ」という意地悪な話を作る作家だと思ってたので、彼が最初から最後までストレートで前向きな心理療法セミナー風味の作品を手掛けたのには結構裏切られた感がある。
第二のロビン・ウィリアムズはサイモン・ペッグにでも任せとけばいいじゃないか。『ズーランダー』とか『ケーブルガイ』とか『トロピックサンダー』を撮った意地の悪いニヒリストが何を毒気のないことやっちゃってんのよぉ。
『グレートトラバーズ』にも主題歌として使われているオブ・モンスター&メンとホセ・ゴンザレスの楽曲が収録されているアルバムは買った。いい曲。私のなかではウォルターじゃなくて陽希さんのテーマ曲というイメージが強いけど、映画サントラは耳に残っているのがいっぱい入ってお得でした。