南宮龍八

馬鹿(パボ)の南宮龍八のレビュー・感想・評価

馬鹿(パボ)(2008年製作の映画)
4.0
小さなトースト屋を営むスンニョン(チャ・テヒョン)は幼い頃の練炭事故で脳に障害を持っている。みんなはそんなスンニョンを見て「バカ」と呼んでからかっていたが不思議と誰も彼を嫌う人間はいなかった。しかし「トーストを焼くしか能がないのか!?」と兄を馬鹿にするたったひとりの妹ジイン(パク・ハソン)だけは別だった。ある日スンニョンは留学から帰って来た幼馴染のジホ(ハ・ジウォン)と出会った。ヘラヘラと笑いながら近づいて来たスンニョンに最初は驚くジホだったが徐々に幼い頃の記憶を思い出して懐かしむのだった。しかしスンニョンはジホが現れる度に何故か慌てて逃げ出そうとする。ジホはその理由が思い出せなかったがスンニョンの親友サンス(パク・ヒスン)だけはそれを知っていた。実は小学校時代、不注意でジホの大切なピアノに火を付けてしまったサンス。たまたま現場にいたスンニョンを犯人と勘違いしたジホはスンニョンに「私の前から消えて!」と怒鳴ってしまったのだった。今でもその時の言葉を忘れていないスンニョン。彼の心にはジホに対する優しい想いでいっぱいだった。そんな時ジインが学校で倒れた。スンニョンは仕事を放り出してジインをジホの父親(ソン・ジェホ)が勤務する病院に担ぎ込むがジインは重い腎臓病と判明。腎臓の移植手術が適応しないスンニョンの代わりに腎臓提供に名乗り出たのはサンスだった。手術は成功しジインはスンニョンの優しさを身に沁みて感じるが・・・

2006年に完成したものの諸事情により長らくオクラ入りしていた作品で、2008年2月にやっと公開されたチャ・テヒョン主演によるヒューマンドラマ。毎日を精一杯生きるスンニョンと触れ合うことで人生に挫折しかけたジホが再び成長していく物語である。妹ジインのために毎日朝食を作ったりトースト屋で稼いだお金をコツコツ貯めるなど、物語の至るところでスンニョンの純粋で優しい気持ちが感じられるのだ。障害者ゆえに苦労も多い兄をいつも疎ましく思って口を聞こうとしないジインであるが彼女もまたジホと同じくスンニョンの優しさを肌で感じていくのである。またヤクザな生き方のサンスが何かとスンニョン兄妹を思いやっている関係や、いつも優しい眼差しでスンニョン兄妹を見守っているジホの父親(ソン・ジェホ)の存在も温かい気持ちに溢れているのだ。しかし、スンニョンを通じて周囲の人々が明るく心安らいでいく展開が一転して悲しい結末を迎えるあたりは流石に一癖ある韓国映画である。

2009/01/14
南宮龍八

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