あーや

海の沈黙のあーやのネタバレレビュー・内容・結末

海の沈黙(1947年製作の映画)
5.0

このレビューはネタバレを含みます

舞台はドイツに占領されたフランス。お爺さんと姪が住む田舎の小さな一軒家を一人のドイツ人将校が訪ねてくる。彼は2人に「宿の場所を間違えたため泊めて欲しい」と言い、2人は抵抗も兼ねて無言で応える。しかしそれからというもの、将校は毎日夜になると彼らの家に泊まりに来るようになる。泊まりに来ては自らの過去やフランスの文化と学問に対する熱い思いを熱弁していく。彼はドイツ軍の将校でありながら、フランスが大好きなのですね。今の大きな戦争を経て2つの国がいずれ手を取り合ってほしいという希望を心の底から願っているような人なのでした。ところがそんな彼の情熱よりも強烈なのは、将校が熱弁している間ずーっと無言を貫くお爺さんと姪です。暖炉の前でお爺さんは黙ってパイプを燻らし、姪はひたすら編み物に集中しているのです。その間何にも喋らない。毎日自分の家に来てフランスとドイツに対する愛と2国間の未来を語り倒すドイツ兵に対して何にも言わないの。途中から軍服では無く、私服に着替えてから2人の元へわざわざ語りに来ていたのにも関わらずそれに対しても無反応!ただ、直接的な言葉は交わさないものの徐々に将校と姪との間には恋の始まりのような感情が芽生え始めていた。
しかし、そんな3人に突然最後の夜が訪れる。ドイツ軍がフランス人の精神的な占領を目指していることを知り失望した将校が前線に出ることになったのです。それを聞いてこれまでずっと黙っていた姪が遂に一言「adieu..」。カメラは彼女の顔面を正面からアップで映し、目を見開いた後ゆっくり俯くその寂しげな表情をとらえる。そしてカメラが引くと彼女の美しい横顔と彼女の肩にかけられたスカーフが暖炉の火に照らされる。そのスカーフには2つの手が触れ合おうとしている柄が描かれていた。彼女の心が将校の語りに動かされていた確固たる証ですね。そこから更にアンリドゥカのカメラが冴える。翌朝、部屋の奥から間接的にドイツ兵を称えるお爺さん、玄関を出て車に乗り込む姿を見せずに出発する将校。そしてラストシーン。お爺さんと姪の朝ご飯では2人の表情を見せず、心の空虚感を2人の横顔の陰で映像に語らせる。
正直終始ほとんど将校の1人語りのため結構頻繁に睡魔が襲ってきました。しかし、終盤からラストへの展開と画の凄さったらもう半端ない。反戦も愛も言葉では語らせず画で語らせるのです。映像が魅せる語り方とはこういうことだったのか。お見事!アンリドゥカ、改めて素晴らしいカメラです。
そういえば語り倒した後の将校が毎晩「Je vous souhaite bonne nuit 」と言ってから2階に上がってゆくのですが、これは「おやすみなさい」よりもかなり丁寧で紳士的な言い方。その言葉遣いで彼がとても礼儀正しく、お爺さんと姪を尊敬しているという姿勢が明確に解る。そして姪が最後に応えた「adieu」はただのさよならではなくて、別れた恋人や亡くなった人など二度と会えないであろう人に向けるさよならの意味。だからこそ最後は本当のお別れなのですね。。そんなお別れをした次の日の朝に姪の表情をあえて映さないなんて。くー!繊細!!!メルヴィル監督ってフィルムノワールの印象しか無かったのですが、これは全く異なる。でもこの作品とても好きです。
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