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ラストエンペラーのdrugmasterのレビュー・感想・評価

ラストエンペラー(1987年製作の映画)
4.5
清朝最後の皇帝 愛新覚羅 溥儀の一生であり、目まぐるしく変わる社会情勢と数奇な運命に翻弄された人々の群像劇でもある。

溥儀はたった2歳で母親から引き離され、右も左もわからぬまま王座に据えられ、しかしまもなくして起こる辛亥革命では本人の知ることなく清朝は滅び、紫禁城の中だけの皇帝とされ自由に外出することもままならない。
そればかりか北京政変でその紫禁城からも追い出され、それでも王朝の復活を信じて、傀儡と呼ばれながらもかつての日清戦争では敵国だった日本に協力して…
その節々をどんな気持ちで生きてきたのだろう、いや、何度自分を心の中で殺してきたんだろう。
溥儀を取り囲む人々も、皆が色んなものを背負いながら取り巻くものの渦潮で揉まれ、ある者は抗い、ある者は飲まれ…観ているこちらもひいては返す遣る瀬無い気持ちを何度となく味わわされるのだけど、その一方で知らざるところで彼らが固めた歴史の地盤の上に今自分は立っているんだなと思うと、めちゃくちゃ胸の奥が熱くなった。

印象的なシーンが沢山あって、語り出したら止まらなくなりそうだけど。
個人的に一番好きなのは、文繍が、階段を駆け下りて雷雨の中に飛び出すところ。バックグラウンドに流れるrainの力強いストリングス、「傘なんていらない」という台詞。

もちろん、クライマックスに差し掛かる頃、溥儀が子供のようにいたずらっぽい笑み浮かべるあのシーンも良い。

多少の脚色や創作はあるものの、一人の皇帝と彼を取り巻く人々と時代を取り上げて、歴史には表と裏と熱い血潮の流れと魂がある、というのをたったの3時間弱で感じさせてくれる物凄いパワーのある映画だと思った。
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