ボブおじさん

ウルフ・オブ・ウォールストリートのボブおじさんのレビュー・感想・評価

3.7
金も学歴も無かった青年が、証券取引の世界に入ると巧みな話術で人々の心を瞬く間につかむと、生き馬の目を抜くウォールストリートを猛烈なスピードで駆け上がり、26歳で年収4900万ドルを稼ぐようになるサクセスストーリー……では終わらない。

デカプリオ演じる青年がいかにして大金持ちになり、その後身を滅ぼして何もかも失ったかまでをキッチリと描いている。

だが何者でもない野心家の若者が、自分の腕と度胸を頼りに上り詰め、やがて何かをきっかけに転落の道を転げ落ちていく映画は、今までにも散々作られてきた。

この典型的な起承転結の物語をマーティン・スコセッシ監督がどの様に仕上げたかが見どころだ。

結論から言うと大筋の話に驚きは無い。
だが豪華な出演陣と桁外れのスケールで、決して当たり前の映画にはしていない。

スコセッシはこの映画を〝とてつもなく明るくゴージャスな〟クズ野郎の話に仕上げたのだ。

同じ様に莫大な資産を掴んだ若者の成功と孤独を描いた「華麗なるギャツビー」や「ソーシャル・ネットワーク」と比べると圧倒的に明るい。

そして稼いだ金額・豪邸・車・ファッション・自家用ヘリ・極付はヘリポート付きの豪華ヨットととにかくゴージャス。
キャスティングも然り、デカプリオに証券取引の極意を教える元上司にマシュー・マコノヒーを起用することで映画としての格が上がった。花を添えるヒロインのマーゴット・ロビーは、存在そのものがゴージャスだ。

また、ビジネスの成功と共に金・セックス・ドラッグに溺れていくのだが、驚くのはそのスケールの大きさだ。金にモノ言わせ女もドラックも好きな時に好きなだけやりまくる。口癖は〝FU■K〟気合を入れる時には必ず口にする。側から見ればとんでもないクズ野郎だ。

富と名声を一気に手に入れ、ウォール街のウルフという異名で呼ばれるようになった彼は、そのカリスマ性で社員からの信頼も厚いことが描かれている。

観客も彼の情熱と心に響くスピーチに惑わされそうになる。このバブリーなトランス状態は、快楽中枢をダイレクトに刺激する。

だがこれは明らかな洗脳だ。社員は密室での異様な興奮状態の中、彼に鼓舞され、勇気づけられながらクレイジーパーティーで狂っていく様はカルト教団を思わせる。

しかしハチャメチャな祝祭はそう長く続かない。やがて非合法の株の売買に手を染め始めた彼は地下鉄通勤をするFBI捜査官に追い詰められていくのだ。