こたつむり

銀の匙 Silver Spoonのこたつむりのレビュー・感想・評価

銀の匙 Silver Spoon(2013年製作の映画)
3.3
生命を育て、喰らう、青春物語。

原作の『銀の匙』は。
親に敷かれたレールから外れた《八軒勇吾》が、雄大な自然に恵まれた農業高校で“生きること”の現実を目の当たりにし、自分を見つめ直す成長譚。荒川弘先生の“しなやかな強さ”が滲み出た傑作です。

そして、マンガを映画化する場合は。
取捨選択が重要です。それは製作者の意図が如実に表れる部分であり、作品の方向性を決めるポイント。本作の場合は、サブキャラクタ(西川君…)や恋愛部分を削ぎ落とし、原作のテーマを尊重することに力を注いでいました。

だから、酪農の現実から目を逸らしていません。豚を屠殺すること。ベーコンを作ること(紐を縛るのは結構大変なのだ)。原材料である牛乳500リットルが安いこと。そして、経営が行き詰まり、離農していくこと。基本は青春物語なのでサラリとした描写ですが「見せる部分はキッチリと見せる」という心意気が素晴らしいです。

そして、現実を真正面から描いたからこそ。
それを受け止める側の“主人公”に物足りなさを感じました。原作の《八軒勇吾》は、辛辣な意見を口にしても“全力投球”の姿勢を崩さない男。だから、友人たちが耳を貸し、協力を惜しまないのです。

確かに外見の雰囲気は良かったと思います。
しかし“何事においても真剣である”姿勢が表現できていないので、不器用な部分だけが浮き上がり、ただの“冷めた奴”になっていました。だから、恋愛部分を大胆にも削除したのは早計だった気がしますね。周囲の評価が彼を浮き彫りにする…という演出が使えないのですからね。

まあ、そんなわけで。
原作を再現しようとした努力は伝わってきましたが、吉田恵輔監督が描く意義を見出せなかったのも事実。監督らしさを感じたのは、広瀬アリスさんの“胸の谷間”が映る場面だけでした。下心で言うわけじゃないのですが、監督さんが携わるならば、ああいう場面がもっと多くても良かったと思います(『銀の匙』の世界観はぶち壊しになりますが)。

そして、スタッフロールの最後に。
“注意書き”が入るのですが、アレは物語の余韻をぶち壊しにする愚の骨頂。カップラーメンの容器に「熱湯注意」とか書いてしまう“今どきの事情”で言えば仕方がないのでしょうけど…。寒い時代になったものです。