Ricola

her/世界でひとつの彼女のRicolaのレビュー・感想・評価

her/世界でひとつの彼女(2013年製作の映画)
3.6
近未来SF的な背景の、人間とAI間のピュアな恋愛を描いた作品。

過去の恋愛で傷ついてきた人間のセオドア(ホアキン・フェニックス)と、人間のために造られてAIのサマンサ(スカーレット・ヨハンソン)は、どんどんと心を通わせていくが…どうしても二人の間には人間同士とは違って壁があった。


光、と一言で言っても、さまざまな光の描写によって、彼らの関係性や気持ちまでが細やかに表現されている。
オレンジ色を帯びたフィルターのようなあたたかな幸福に満ちた光や、薄暗い場所での暗い影がセオドアを包むのは、彼の感情にサマンサが順応しているよう。
彼女の姿形というのは、端末機器というコンパクトに収納されているものではなく、セオドアの周囲の空間に溶け込んでいるものだと思わされる。

背景がピンボケして曖昧になるのも、人物だけが浮き上がりその存在感が強まるだけでなく、ファンタジーさ、サマンサの生きている抽象的な世界に一瞬彼がいるかのようにさえ感じられる。
だからこそ、その空間が彼の日常であるのにもかかわらず、エモさを感じる。
単に鮮明で現実をそのまま切り取ったような映像よりも、そういった粗削りな映像のほうが実は多くを語るのではないだろうか。

「恋とは社会的に受容された狂気」
そうか、だから恋に落ちるとなんてことない日常はキラキラと輝き、恋したことによって人々は悩み苦しみ心身にまで影響を及ぼすのか。

どうしようもなく恋に夢中になり、目前の世界まで様変わりしたように感じる。
その恋の相手は「実体のない」AIでも、常に彼女がいるときは見る世界が変わるのだ。
Ricola

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