わたふぁ

her/世界でひとつの彼女のわたふぁのレビュー・感想・評価

her/世界でひとつの彼女(2013年製作の映画)
4.5
ホアキンの深層心理に基づいているっぽい目の演技が素ん晴らしい。
動揺して左右を行き来する目、記憶を辿って見上げる目、感情を汲み取ろうとまっすぐ前を見つめる目。AIに心を奪われてしまった主人公を熱演している。

楽しいのならAIとの恋愛もいいと思うんですが。
人は、人と心を通わせることの難しさや大変さを知っているからAIのような実体のないものにも恋をしてしまうんだと思うんだけど、
同時に人と心を通わせることの嬉しさや喜びも知っていて、通わないときの切なさを痛いほど知っているから、始めから“不通”のAIとの恋愛はやっぱり不可能です。

人間は思ったより、感動しがちで、希望的で純粋な動物だから、AIと本気の恋愛をしてはやっぱりダメなんです。

映画は、AIがトンデモなく巨大で柔軟な欲望を持って、愛のようなものを生み出して、人間よりも見事な以心伝心の状態をつくってしまう、というおぞましいお話なんだけど、使っている色は赤・オレンジ・ピンクなどの暖色ばかり。ハートウォーミングな見た目と真実のギャップに監督の意地悪さも感じます。

しかしながら、たっぷりの光をまとった恍惚とした近未来表現は、スパイク・ジョーンズ監督のずば抜けたセンスが光る。
未来に期待しなくとも、世界はすでに美しい、と言わんばかりに、CGを最小限に抑えて、徹底的な色調補正で創り出した別次元のロサンゼルスの街を眺めているだけで楽しいです。ひさびさに見た。大好きな映画。