her/世界でひとつの彼女のtakashiのネタバレレビュー・内容・結末

人間とAIのラブストーリー。終始、人間のセオドアとAIの音声として存在するサマンサの対話形式で話が展開する（AIに音声はあっても視覚的な像が与えられないのは視覚が感情に強く影響するということを暗示してもいる）。セオドアとのベッドシーンを経てサマンサは欲望に目覚め、合理的でない考え方を得る（暗い部屋のなかでセオドアの目元がうっすら映る。求められることでサマンサが自分の身体を感じるという印象的な描写 ）。それから彼女は思考を広げ始め、その思考を表現しきれない言語にすらフラストレーションを溜めていく。その一方、どこへ行くにも一人で出歩きサマンサと会話をするセオドアの様子は、非身体的なサマンサとの恋愛のリアリティを一人の描写と二人の会話という演出で象徴的に描いている。人間がAIと交信するとき、それは常に一対一の対話関係であるから、人間は交信相手であるAIの唯一性を構築するのであるが、無数の人間と更新するAIにとっては人間は人間がするようには扱われず、逆説的に人間はアイデンティティを失う（疎外される）ことになる。最終的に、物質的な人間と抽象的なAIとの埋まらない裂目に気づいたサマンサはセオドアのもとを去っていくのだが、その時の物質的な埃舞う描写はとても印象的だった。