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her/世界でひとつの彼女のmoridonのレビュー・感想・評価

her/世界でひとつの彼女(2013年製作の映画)
4.6
人間とAIとの奇妙で歪な恋愛を描いているように見えて、最終的には“人を愛するとは何か”“人と向き合うとは何か”という普遍的なテーマに落とし込んでいるところが面白い。SF好きにはたまらない。

心や感情って、初めからそこにあるものじゃなくて、育んでいくものだと思うんです。記憶や思い出、関わる人やモノから受ける影響。それによって養われていく感性が積み重なって、感情というものが紡がれていくんだと私は思っています。

だからこそAIのサマンサがまるで心を持っているかのような発言をするのは納得できるし、そんな彼女がこの感情はリアルなのかと悩む展開も面白かった。筋が通っているというか、本当にそういう時代が来るかもしれない、と思いこの世界観に入り込んでしまった。

何より素晴らしいのがAIであるサマンサとセオドアの関係、そしてその関係が崩れていく過程が、そのままセオドアと妻のキャサリンが離婚に至るまでの流れとリンクしている点。その結果皮肉にも人ではないサマンサとの恋愛が、真に人を愛するとは何かを彼に教えてくれるのである。

向き合うこと。そして、受け入れること。“Nothing would ever pull us apart.”というサマンサのセリフと、キャサリンへ向けた手紙の中の“There will be a piece of you in me always.”というセオドアの言葉が重なる。
自分自身とついに向き合い、誰かの人生ではなく自分の人生のことを初めて手紙にしたセオドアのこの言葉は、彼が全てを受け入れて前に進むことが出来たことを表しているんだと思う。素晴らしい終わり方だった。

それに加えてこの作品は衣装の良さが際立っている。気になって衣装を手掛けたスパイク・ジョーンズ氏のインタビューを読んだのだがとても面白かった。未来を舞台にした映画の多くは珍しい素材やゴーグル、ヘルメットなど、現代にないものを足し算しているのに対し、今作は引き算を意識したとのこと。デニムはダメ、ネクタイもダメ、青と緑は使わず、襟はあっても小さく。何か違うという感覚が、現代ではないことを脳に錯覚させている。
30年代に流行っていたハイウエストのパンツを採用しているのも大正解だと思う。トレンドは繰り返すものであり、過去に戻ることが未来を描くことになるというファッションならではの視点がめちゃくちゃ面白い。

書きたいこと多すぎて書き切れない。演技に関しても申し分無し。ホアキン・フェニックスの狂気じみた演技は安定して素晴らしい。『ジョーカー』のホアキンが陰の狂気ならこの作品のホアキンは陽の狂気だと思う笑

そしてスカーレット・ヨハンソンがさらに好きになった。声だけでこんなにも感情って伝わってくるのか。

滑舌もいいし、彼女の声で英会話のリスニング教材とか出してほしいと思った…