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ボッカチオ'70のkaomatsuのネタバレレビュー・内容・結末

ボッカチオ'70(1962年製作の映画)
3.5

このレビューはネタバレを含みます

第1話 レンツォとルチアーナ
会社の上司に黙って結婚した若いカップル、レンツォとルチアーナ。ルチアーナ(マリサ・ソリナス)の家族の住む狭小アパートでの、プライベートがない不便な同居生活。何も知らない上司からは言い寄られたり、セクハラされたり。微笑ましくも、前途多難な二人の新婚生活をさわやかに描いた作品。大きな工場で一斉にとる昼休みや、映画館や公営プールでの大勢の人だかりなど、どことなく日本の高度成長期に通ずる雰囲気があり、4作品中、1960年代初頭のイタリア市民の「大衆」が最も楽しめる内容となっている。

第2話 アントニオ博士の誘惑
アントニオ博士(ペッピノ・デ・フィリッポ)は、若者たちが公園や車の中でイチャつくのさえ許せない、超がつく堅物人間。ところが、博士の自宅の前に突然、セクシーな女性がベッドで横たわるイラストが描かれた巨大な広告看板が出現。「破廉恥だ!」とその看板に楯突くものの、ある夜、博士は妄想の世界で、その看板から抜け出した巨大な女性(アニタ・エクバーグ)の誘惑に反発しながらも徐々に引き寄せられ、最後には骨抜きにされてしまうという話。アニタ扮する巨大女性の胸の谷間(実際は大きな風船みたいなものを膨らませているだけ)に挟まれて弄ばれる小さな博士が、あまりにも滑稽でおかしい。あえてのチープなセット感満載、女性への飽くなき好奇とトラウマを楽しくも大胆に表現した、いつものフェリーニ節全開の小噺。

第3話 仕事中
昔は「前金」というタイトルだったような…。名匠ヴィスコンティによる、ある若い貴族夫婦のお話。外でコールガールと豪遊した事実を揉み消そうと躍起になる伯爵(トマス・ミリアン)を横目に、家出をし、豪遊した相手のコールガールたちに会って所作やファッションを心得て帰ってきた伯爵夫人(ロミー・シュナイダー)。夫人は、父親からの援助ばかりではなく、今後は自分でも「仕事」を得ようと画策。夫の浮気をやめさせるべく、夫をベッドに誘い、同時に小切手で前金を請求する。4話中、最も見応えがあり、最も痛烈な皮肉の効いた、スリリングな室内劇だ。夫人を演じるロミー・シュナイダーは、他の3話のヒロインとはひと味もふた味も異なる、内なる色気を放ちながら、複雑な女心を繊細かつ絶妙に演じ切っていて、唸らされるばかりだ。

第4話 くじ引き
ある移動式の見世物小屋で働くゾーエ(ソフィア・ローレン)は、彼女自身が恒例の秘密のクジ引きの「景品」でもある。このクジに当たったラッキーな男は、ゾーエと寝る権利を得て、町中の注目の的となる。ある日、ゾーエはあるイケメンと恋に落ちると共に、自分がクジ引きの「景品」であることを恥じる。ある日、欲の無さそうな男がたまたまクジに当たる。その男を自分の部屋に招き入れるゾーエ。さらに、それを目の当たりにし、嫉妬に狂うイケメン。その結末やいかに…。ヴィットリオ・デ・シーカならではの、悲喜こもごも、安定感のある庶民劇ながらも、4話中最もいかがわしく、不粋な話と言えるかも。


全4話で、トータル2時間45分。見応えは十分。ソフィア・ローレンやアニタ・エクバーグら、きわめて肉感的なイタリア女優の競艶だ。そんな中、前述したように、明らかにその二人とは異なる繊細な色気で、複雑で深みのある女性を演じたロミー・シュナイダーは、やはり別格。個人的には、デ・シーカの「くじ引き」が、ソフィア・ローレン扮するゾーエを取り巻く男たちの描写がちょっとぞんざいな扱いだったかなと思った以外は、総じて楽しめた。中でも、当時はライバル視されたヴィスコンティとフェリーニが、それぞれの持ち味を十二分に活かし切っていて出色だったが、意外にもマリオ・モニチェリ監督の「レンツォとルチアーナ」は、初々しいカップルの日常のみならず、その時代のスポットというか、大衆が集まる行楽地が見られて楽しかった。日本映画における、若大将シリーズや無責任男シリーズなどの楽しみ方とまったく一緒で、60年代に流行った行楽施設などに、ウジャウジャ人が集まる光景を観ているだけで、ウキウキ萌えてしまうのだ。      
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