『ちえみちゃんとこっくんぱっちょ』と同様、第35回 東京学生映画祭「ゼロ年代学生映画特集」にて鑑賞しました!
short versionのレビューとなりますので、ご了承下さい。また、今後long versionを観た際に追記したいと思います。
さて、では早速本編へと参ります!
「映画」として物語る、若者の恋愛模様。
私の所感は、これまで観てきた濱口竜介監督の作品群が、近年に撮られたものばかりだったため、本映像の8ミリフィルムの画質の粗さや、技術の拙さ等に目がいってしまい、物語に集中できなかったというのが正直なところです。
学生映画なのだから、その辺りは大目に見ろと言われそうですが、そういった考えを念頭に置いても少々厳しいものがありました。(顔のどアップ、揺れの激しいカメラ、不自然に人物が見切れるカット、不必要なカット割り等々、意図というより技術の問題に感じるノイズが多かったです)
概要としては、1人の女性を中心に、3人の男性の好意が入り乱れ、それぞれの結末に向かうといった内容になっています。
モチーフ(撮影場所)として競馬場でのレースが用いられ、恋の行方のヒートアップ、静的な会話劇と動的な心情変化が、重ねて語られているように感じました。
そして、本映像の特徴的な部分として、決定的なドラマを描いていないというものがあり、描かないことで「映画」として物語ることを成立させていました。
「映画」は画と音楽、役者の演技、演出、脚本と、様々な要素で構成される総合芸術です。
過剰な説明(足し算の考え方)によって情報過多の楽しさを与えるタイプの作品もあれば、逆に引き算の考え方で、観客に多くの余白を提示し、考えさせるタイプの作品もあります。
ただ、本来の「映画」の美点は後者にあると思っていて、画と音楽、役者の演技、演出と、セリフ以外にも観客に伝えられる手段があります。だからこそ、セリフ、ひいては言葉はシンプルに、想像させる、余白を作る、その「映画」に浸れる作品に価値を見出したいと思う私がいます。
そんな私にとって、本映像は素晴らしいの一言に尽きます。
会話劇でもある以上、セリフは多いと感じる人も多いでしょうが、決してそれらは説明的なセリフではなく余白を与えるセリフ、事実を確定させる内容ではないのです。
淡い輪郭、その点を示すような粗くも確かな映像、婉曲的なアプローチによって想像の余白を残したセリフ、会話劇がとにかく心地いいと感じました。
終盤の、電車で男女が向かい合った席に座り、辞書を「夏」から読み上げていくシーンはとても印象に残っています。
上記を始めとしたハッとするシークエンスも幾つかあって、その辺りも本映像を魅力的に思う要素でした。
人と人が関わることによって生じる不和や衝突、近付いては離れて、また離れては近付いて、相手を思う気持ちが突き動かす、呪縛から解放され躍動する身体、あくまで「映画」として切り取られたそれぞれが、濱口竜介らしさ、一貫した興味に基づいたものになっていました。
とはいえ、前述した通り画質の粗さや技術の拙さは強く感じましたし、本人が出演する等、おそらく役者を使っていないこともあって、演技もあまり上手いと言えるものではなかったと思います。
総じて、全編を通してノイズに感じる部分は多けれど、「映画」として物語ることに終始した内容に、感動させられた1本でした!