かなり悪いオヤジ

インターステラーのかなり悪いオヤジのレビュー・感想・評価

インターステラー(2014年製作の映画)
4.0
「相対性理論」や「ブラックホール」ならまだしも、「ワームホール」に「事象の地平線」、「特異点」となると何のことやらさっぱりという方が(私を含め)ほとんどだったのではないでしょうか。

そんな最新の宇宙理論に詳しい方だったら10倍楽しめそうなこの映画、あの完璧主義者のノーラン作品だけに、そんじょそこらのSFオタクなどまったく歯が立たない科学考証がなされているに違いないので、下手な横槍はやめておいた方が無難な1本です。

しかし気になる点が1つだけ。本作のクライマックスで、主人公の娘マーフが兄のトウモロコシ畑にいきなり放火するシーンが出てくるのですが、ここがどうにも腑に落ちません。忘れ物を取りに行くとか何とか適当な理由をつけて部屋に戻ればいいものを、そんなわざわざガソリンまでぶちまけて火を着けなくても、と思うのです。

この問題シーンの同時刻(といっても別惑星では時間の進行具合が全く異なるようなのですが)に父親のクーパーが死闘を繰り広げていた相手を思い出していただきたい。科学者としては最もやってはいけない禁じ手を使って保身を謀ったマン博士その人。

マーフの兄もまた、娘の死をひきずって医学(科学)に背を向け絶望的な農業(映画の中ではなぜか科学の対角に位置する希望のない産業として描かれている)にいつまでも拘っている(死ねと言われれば池に飛び込みかねない)保守反動的な人物なのです。

そんな科学文明の発展を妨害する敵(?)との戦いに勝利し人類に新しい未来をもたらすのが、決して諦めることなく科学の力を信じ続けた、時空を越えた愛=科学愛で結ばれた父娘というもう一つの構図が、本作品からハッキリと浮かび上がるのです。

ブレグジットやトランプ当選という昨今の保守反動的な政治の動きに見られるように、科学を最大の武器としていたグローバリズム資本主義に陰りが見えはじめてきたこの時期に見てしまうと、どうしても作品テーマにいささか時代とのズレを感じてしまうのです。